感情を活写するカサヴェテス流映像センス〜映像の魅力
本作には、既存の映画文法にとらわれないジョン・カサヴェテス流の映像センスが随所に見られる。
舞台役者としてキャリアをスタートし、その後ハリウッドにも進出したカサヴェテス。しかし、有名作品に出演する中で、ハリウッドの因習化した制作システムへの疑問が募りはじめ、自ら映画制作を手掛けはじめる。
とりわけカサヴェテスが最も疑問を抱いたのは、類型化された感情表現だった。彼の初期作品『フェイシズ』(1968年)や『こわれゆく女』では、カメラが役者たちの表情を制約せず、刻々と変化する役者たちの感情を切り取っている。
『グロリア』の場合も、先に挙げた2作品よりは大衆向けとは言え、このコンセプトが徹底されている。街中をさまようグロリアを必死で追いかけるカメラからは、彼女の躍動する感情が読み取れる。
なお、本作の撮影は、1980年代当時世界最高の犯罪率を誇ったとされるニューヨークのブロンクスで敢行。落書きだらけの電車やバスの無賃乗車、ボロボロのタクシーなど、当時のアメリカの生々しい現実が活写されているのも見どころのひとつだ。