愚かな男たちとたくましい女たち
機体の残骸に群がるように軍や警察が押し寄せる。そして、オランダからは娘の生存を信じてやまない老夫婦に道案内を頼まれる2人…。生存している可能性など限りなく低いにもかかわらず、「私には分かる。彼女は生きている」と言い張る母の姿が痛々しいまでに、胸に迫る。
そもそも航空機はなぜ墜落したのか。なぜ、ロシアにもウクライナにも関係ないマレーシア機が攻撃にターゲットになり、何の罪もないオランダ人をはじめとする外国人が犠牲にならなければならなかったのか…。
作品を通して、一貫して描かれているのは、トリクを含め、登場する男たちの“愚かしさ”だ。戦時体制で、物資の確保にも事欠く事態をよそに、国家に対する“忠誠”や“思想”などといった些末なものに拘泥し、人間関係を複雑なものにし、結果、自らの首を絞めている様子は、イライラするほど愚かに映る。
一方、何ら正確な情報が得られない中で、運命に翻弄されながらも毅然と振る舞うイルカの姿には、間もなく母親になろうとする女性の底知れぬ強さ、たくましさを感じ取ること
ができる。