シーンにマッチする考え抜かれた選曲
さまざまな解釈を楽しめる音楽表現
最後に、音楽にも触れておきたい。
前作は、オリジナルスコアだけでなく、劇中歌として新旧の楽曲を使用したのも話題になり、高い評価を得た。マイルスが口ずさんだポスト・マローン&スワエ・リーの「Sunflower」は、彼を象徴する曲だと言えよう。
また、叔父といる場面では、舞台となるブルックリンのレジェンド、ノートリアス・B.I.G.の「Hypnotize」といったクラシックなヒップホップが次々と聞こえてくる。世代と地域、心情に合わせた曲の使い分けが見事だった。
選曲に携わったのは、キアー・レーマンだ。映画『21 ジャンプストリート』の監督としても知られるフィル・ロード&クリス・ミラーの作品含め、これまでにさまざまな映画、ドラマに関わっているが、中でも『ワインは期待と現実の味』(2020年)は特筆すべきだ。
この映画は、アメリカ南部に住む親子の物語で、主人公が映ると新しいトラップミュージックが流れ、その親が関係するシーンではレア曲を含む70年代のサザン・ソウルが聴こえてくる。『スパイダーマン:スパイダーバース』同様、世代の違いに合わせた素晴らしい選曲だった。
どこまで関わったかはわからないものの、本作でも、キアー・レーマンはミュージック・スーパーバイザー、音楽監修としてクレジットされている。今回は、ヒスパニックであるマイルスの母方のバックグラウンドをより反映してか、ベッキー・G ら、ラテンポップやレゲトンのアーティストの曲も前作以上に目立つ。
また、レコードをかけるとある場面では、ボビー・ブランド「Ain’t No Love in the Heart of the City」が流れる。この哀愁漂う70年代のソウル名曲は、ブルックリン出身のスター、ジェイ・Z の「Heart of City (Ain’t No Love)」のネタとしても有名だ。
サンプリングしたジェイ・Z の曲ではなくネタ元を使った意図など、さまざまな解釈が可能な秀逸な選曲だと思う。
映像表現、物語、そして音楽。本作は、膨らんだ期待に応え、それをさらに超えていく映画となった。次にどのような展開が待ち受けているのか、今から楽しみでならない。
(文・島 晃一)
【作品情報】
タイトル:『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
原題 『SPIDER-MAN: ACROSS THE SPIDER-VERSE』
監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
脚本:フィル・ロード&クリストファー・ミラー、デヴィッド・キャラハム
声優:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソン、イッサ・レイ、ジェイソン・シュワルツマン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ルナ・ローレン・ベレス、ヨーマ・タコンヌ、オスカー・アイザック
日本語吹替版声優:小野賢章<マイルス・モラレス/スパイダーマン>、悠木碧<グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン>、宮野真守<ピーター・B・パーカー/スパイダーマン>、関智一<ミゲル・オハラ/スパイダーマン2099>
日本語吹替版音響監督:岩浪美和
日本語吹替版主題歌:LiSA 「REALiZE」
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