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追い詰められた役者たちの破壊力ー配役の魅力

主演のジャック・ニコルソン(左)と監督のスタンリー・キューブリック(右)【Getty Images】
主演のジャックニコルソン左と監督のスタンリーキューブリック右Getty Images

納得のいく演技が得られるまでひたすらテイクを重なることで知られる”完璧主義者”キューブリック。本作では、フィルムを現像前にチェックできるようになったこともあり、撮影現場では40テイク、50テイクのリテイクは当たり前だったという。

主演のジャック・ニコルソンは、『カッコーの巣の上で』(1975年)で主演男優賞を獲得し、すでにスターの座に上り詰めていたが、キューブリックはそんな彼にも容赦をしない。特に、ジャックが斧でドアを破壊し、ドアの隙間からジャックが部屋を覗くシーンは、テイク数190以上を記録し、撮影期間は2週間も伸び、徐々に不満と疲弊が蓄積していったという。ニコルソンの映画史に残る名演技は、彼が本気で憤慨していたからこそできた演技なのかもしれない。

また、ウェンディ役のシェリー・デュヴァルに対しては、ひたすら罵詈雑言を浴びせ続けることで精神的に追い込んでいったという。今のご時世なら確実にパワハラに当たるが、この追い込みにより、観客が戦慄するような恐怖の演技が実現している。

さて、最もかわいそうだったのは、ハロラン役のスキャットマン・クローザースだろう。キッチンでダニーと会話するシーンでは148テイクを記録したというスキャットマン。ジャックに斧で切り付けられるシーンでは、40テイクを記録したところでニコルソンがキューブリックにやめるよう懇願したという。

なお、スキャットマンは、本作の後にリハビリに通院。インタビューでキューブリックについて問われた際には、大粒の涙を流し、辛い撮影を振り返ったという。撮影当時69歳だったスキャットマン。過酷な撮影は、相当なトラウマになったに違いない。

キャスト陣の中でも、主演のジャック・ニコルソンに優るとも劣らない存在感を発揮しているのは、霊感の強いダニーが幻視する水色のワンピースを着た双子の幽霊だろう。双子を演じたのは、一卵性双生児のリサ&ルイーズ・バーンズ姉妹である。

ちなみに、原作では「年の近い姉妹」という設定となっており、一卵性双生児に改変したのはキューブリックのアイデア。シンメトリー(左右対称)の構図を多用するキューブリックの志向が如実に表れた改変だが、その結果、映画に微妙な違和感をもたらし、不気味な印象を強めることに寄与している。

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