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映像美の中に隠された狂気ー映像の魅力

映画『シャイニング』を撮る、監督スタンリー・キューブリック【Getty Images】
映画シャイニングを撮る監督スタンリーキューブリックGetty Images

本作には、不気味さを演出するため、さまざまな映像技法が駆使されている。その最たるものがステディカムの導入だろう。

ステディカムとは、カメラを動かした際も手ブレがなくスムーズな映像を撮影できる機材。今でこそ撮影現場では当たり前に使われるようになったが、本作が公開された1970年代当時はまだ最先端の撮影機材だった。

本作の制作にあたりキューブリックは、開発者のギャレット・ブラウンが撮影したデモ映像に興味を持ち、ブラウンから直接ステディカムを導入。作中では、ダニーが三輪車でホテルを走り回るシーンなどで使用されており、独特のヌルヌルとした動きで気持ち悪さを演出している。

また、ジャックが書斎として使用している大広間のシーンや、廊下に佇む双子の幽霊(写真家のダイアン・アーバスの作品がモデルとされている)など、完璧主義者のキューブリックらしいシンメトリックな構図もアクセントとなっており、絵画のように美しい映像が恐ろしさをより一層掻き立てている。

一度観たら脳裏から離れない、鮮烈なイメージのつるべ打ちが魅力の本作において、最もインパクトを残すショットといえば、誰もが真っ先に「血のエレベーター」のシーンを挙げるだろう。エレベーターのドアが開くと同時に、大量の血が部屋一面を真っ赤に染めるこのイメージは、主人公の妻・ウェンディと息子のダニーが一瞬見る、幻想である。

血の洪水が象徴するのは、舞台となったホテルで過去に起こった忌まわしい殺人事件に他ならない。視界が一瞬にして真っ赤に染まる様子は、閉所恐怖症的なスリルを際立たせる。

なお、編集にも不気味さを演出するための仕掛けが盛り込まれている。例えば、ジャックと老ウェイターのグレイディがトイレで会話するシーンでは、カメラが頻繁にイマジナリーライン(2人の対話者を結ぶ仮想上の線)を超えるため、妙な違和感が生まれている。

また、他のシーンでも、カットが切り替わると左手でドアを開けたことになっているなど、(演出かどうかは不明だが)登場人物のアクションが繋がらない部分が散見される。気づくにせよ気づかないにせよ、こういった些細な仕掛けの積み重ねが歪な不気味さを生み出していることは間違いないだろう。

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