ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 何が足りない…? “有毒な男性性批判”に違和感を覚えるワケ。映画『バービー』徹底考察&レビュー。賛否両論のラストも解説 » Page 4

“ザック・スナイダーの比喩”が生み出す笑い

©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
©2023 Warner Bros Ent All Rights Reserved

次に、男性描写について確認しよう。プロデューサーを兼任したロビーから監督のオファーを受けたグレタ・ガーウィグは、夫のノア・バームバックと共同で脚本を執筆することを条件に、依頼を引き受けたという。この提案は、これまでの監督作で女性主人公の視点を中核に据えてきた彼女が、今作では主に「当事者」バームバックを通じて、男性側の視点をも重要な要素として取り上げようとしたことと関連しているだろう。

近年では、諸マイノリティを見下す差別的なユーモアが正当にも炎上や強い反発を招く一方で、これまで不当な特権を享受してきた白人男性による自虐的なユーモアは、相対的に受け入れられやすい。本作は、ライアン・ゴズリング演じるケンをはじめとした、現実世界の住人を含む男たちのいわゆる「有毒な男性性」を誇張して批判することで、PCに配慮しつつ、毒気のある笑いを同時に取り上げ、ポップさを確保している。

たとえば、男社会の長い悪夢から目覚めたあるバービーが、その時間を異様なまでの長さとこだわりで知られるザック・スナイダーのディレクターズカット版に喩えているくだりには私も笑ってしまった。

また、ゴズリングがエマ・ストーンにドヤ顔でジャズの正史について講釈を垂れていた『ラ・ラ・ランド』(2016)からわずか数年後の超大作で、同じゴズリングをはじめとする男=ケンたちが、浜辺でオリジナルの楽曲を弾き語ったり、『ゴッドファーザー』(1972)の主題について女性たちに嬉しそうに解説する姿を、痛々しいマンスプレイニング(女性や子どもを見下した物言い)の典型例として示すことも、挑戦的ではあったのだろう。

1 2 3 4 5 6 7 8