冒頭ですべての人が心を掴まれるミュージカル
『ラ・ラ・ランド』(2016)
「公開当初に劇場で観ました。デミアン・チャゼル監督の作品は、それまでも好きで観ていたんですけど、この映画はミュージカルだということを聞いていて、どうなるんやろ? と思っていたんです。
でも、冒頭のミュージカルパートの掴みで文字通り心を掴まれて、当時の心境が大きいかもしれないですけど、なんか絶望を感じてしまった映画なんです」
ーーー絶望ですか!?
「いや、なんか、あまりにすごいものを見せられた衝撃で、お笑いを辞めたくなったんですよ。当時は全く売れてないし、飯食えてなくて。もうほんま、給料も5000円未満ぐらいだったんですけど。こんなすごいものを見せられたら、自分もこれからすごいものを作らなあかんのに、もうこんなん無理やって思っちゃったんですよね」
ーーージャンルは違えど、凄まじい創作物を見てしまったと。
「天才の凄まじさを、浴びてしまったというか。絶対勝てへんと思いましたし、そん時の自分は多分このままで大丈夫なんかなっていう状況でもあったかと思うと…なおさら」
ーーでも、ストーリーにはやはり魅了されたわけですね。
「ええ。主人公のピアニストであるセブは、女優の卵・ミアと恋愛関係になったりと、色々とあるわけですが、彼は大スターになるとかじゃなく、ピアノを自分の店で弾きたいという思いだけが強いわけです。
でも、ミアが女優として大成することもすごく応援している。結果、疎遠になったミアが、たまたまセブの店に訪れた際には、ミアはもう結婚していて。その切ない感じが、すごくグサッときましたね。
自分はお笑い芸人なんで、売れることを目指しています。でも、セブは売れるピアニストになることではなく、それでも夢は叶えたんですよね。その辺の考え方や生き方の違いも、当時食えてなかった僕にはなおさらグサッときてしまって」
ーーーああ…確かに一番観ていけない時期に観た感じが…
「でも、今思えばですが、あの時期に観てよかったと思います。だから、今でも好きなんですよね。特に、最後にセブたちのひょっとしたらあったであろうストーリーの世界線が、バーッて映し出されるんですよ。
最初に出会った時に、恋に落ちていたかもしれないかなど、走馬灯のような感じで。それも衝撃的な映像でしたし、何にしろ打ちひしがれた映画です」