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瞬間を生きるー即興演技について

主演・尚玄 撮影:武馬怜子
主演尚玄 撮影武馬怜子

―――尚玄さんが現場入りした時には、既に撮影はスタートしていたのでしょうか?

尚玄「いえ、ぼくはクランクインから撮影に参加しましたね。セルビアの空港に着いてすぐに、建物から出て来るところ撮りたいと言われて、みんなと顔を合わせる前に電話で指示されながら撮影が開始されたので、はじめは少し困惑しました」

―――確かに、本作の世界観は、前2作品との兼ね合いもあってとても複雑な構成になっていますよね。尚玄さんは、ディスカッションなどを通して世界観をインストールしていったんでしょうか。

尚玄「いや、実は事前のディスカッションの時間は設けられてなくて、撮影しない時間は移動か食事だけなんですよ。でもリムは割と散歩してましたね(笑)。

朝起きてご飯食べて散歩に行って、戻ってきたら撮影の内容が決まってたり。疑問があれば直前ディスカッションする感じでした。」

―――散歩中にアイディアを考えていたんですね。

リム「そうですね。食事中は映画の話はほとんどしてなくて雑談に終始していました。そういう意味では、みんなで旅を楽しみながらついでに映画を撮っている感じでした」

尚玄「現場はとても楽しかったですね。撮影時間もそこまで長くなくて、むしろ移動の方が時間がかかりました」

―――通常は、クランクイン前に役柄やセリフを事前に頭に叩き込んで撮影に臨まれると思うんですけど、今回はイレギュラーだったということですね。

尚玄「そうですね。でも、僕が以前出演した『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(2021)のブリランテ・メンドーサ監督も、台本を役者に見せないという演出法を取られていたのでそこまで抵抗感はなかったですね。

ただ、役作りなどの事前の準備ができないので、とにかく監督が指示をしてから撮影をするまでの短い間にどれだけ役の一貫性を保つかに全神経を集中させていました。役者としては大変なんですが瞬発力は鍛えられますし、緊張感が楽しかったりしますね。

それから通常は、台本を読んだ段階である程度映画の全体像が見えてしまうことが多いんですよね、僕は瞬間瞬間で生きることが本当の芝居だと思っていて、全体を俯瞰して頭で芝居をするのは避けようと心がけています。そういう意味で今回は、全体像の俯瞰すらできないので、瞬間にフォーカスしてただ役として生きる感じでしたね」

―――あらかじめ作品の展開が決まっている中で演じてしまうと、フレッシュな部分が失われてしまうのかもしれないですね。

尚玄「そうですね。ただ、ある程度のゴールが分かればそこに向かって演技を積み上げていくことはできますが、到達点が分からないのでとても難しかったですね。

例えば、コロナ禍での自身の経過をセルフィで見せるシーンがあるんですが、順撮りではないので、自分の中で感情の推移を計算しなければならなかった」

―――その場のインスピレーションを表現しながらも、繋がりはしっかり計算していく必要があったわけですね。

尚玄「はい。で、唐突に宇宙の話が出てきたり(笑)。これはどういうことなんだ?っていう(笑)。例えば、移動中に面白い工事現場見つけて『ちょっと撮ってみよう』みたいな感じで急に来るので、なかなか大変でした」

リム「役者にとっては大変だとは思うんだけど、尚玄さんなら絶対出来ると(笑)」

尚玄「出来たのかどうか自分では分からないですけど、監督がそう言ってくれるのであれば良かったですね」

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