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“無常”を描くー何が起きても生き続けていく

(C)cinemadrifters
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―――昔からリム監督は国境を超えて、様々な土地で映画を撮る、水平軸をひたすら移動していく監督であるという印象があります。一方で本作ではジェイが「自分は前世、バルカン半島に住んでいたかもしれない」というセリフを呟いたり、ドラマの時制も錯綜していて、時間軸を行ったり来たりすることへのご関心も、ご自身の中で高まっているのではないでしょうか?

リム「そうですね。実はこれにはコロナ禍の影響もあると思っています。コロナ期間中、全ての記憶、あるいは過去・現在・未来は全部デジャブなのではないかと考えさせられて…もちろん一般化はできませんが、少なくとも自分の中では、時間・時制というのは直線じゃなくて、過去・現在・未来も全部混在しているイメージ。

コロナ禍に入って以降、パンデミック以前に自分の身に何が起きて何が起きなかったのか、はっきり思い出せないと言いますか、判然としない感覚が凄くあったんですよ。そういう感覚がこの映画には色濃く反映されていると思います」

―――そういう意味では、三部作の完結編にしてリム監督の新境地を示してもいますね。

リム「そうですね。今までの2作はもちろん、今まで作ってきたどの映画とも違いますね。とはいえ、自分の中では1作目の『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』(209)が回帰している感じもある。あの映画も是非観ていただきたいですけど」

―――最後にこれから本作を観る方に、それぞれメッセージをいただければと思います。

尚玄「もちろん本作を単品で観ていただくのもいいんですけど、やっぱりより楽しんでいただくために、前作もご覧になってほしいという想いがあります。

僕はこれまで色んな国を旅してきましたが、このバルカン半島っていう地域は、本当に素晴らしいところなんです。見たことのない風景や独特な文化にいつも驚かされる。映画の物語だけじゃなくて、背景まるごと楽しんでいただける作品になっていると思います。

加えてとても重要なのは、このバルカン半島は、周知のとおりヨーロッパの火薬庫であって、戦争の傷跡がまだ色濃く残っています。沖縄出身で、沖縄戦のことを子供の頃からずっと見聞きしてきた僕にとって、実際に戦争体験者の生の声を聞く経験というのは凄く意味のあることでした。ウクライナとパレスチナの戦争が続く中、この作品を通して本当の意味での平和について考えていただけたらと思います。」

リム「この映画は、本当に色んな側面から楽しめる映画。例えばバルカン半島の、広大な自然、美しい景色ですね。ほとんど見たことがない建築物が目の前に現れたりすると、やっぱり設計とかモニュメントに興味がある人には絶対に刺さると思います。

もう一つは、映画で語られている内容ですよね。パンデミック、そして戦争。パレスチナとイスラエル、ウクライナとロシアと何かが起きるとそこばかりに目が行って、ユーゴスラビア紛争のことなどほとんど全ての人が忘れているのではないか。でも戦争が残した傷跡は確実にそこで暮らしている人々に影響を与え続けていて、それが三部作を通して見えるようになっていると思います。

あと、個人的に感じてとってほしいのは、“無常”ということですよね。それは必ずしもネガティブな意味合いじゃなくて、繰り返される戦争と虐殺、パンデミックがあっても人類は生き続けているわけで、そういうのを受け入れながら前を向いて生きていくということ。タイトルの『すべて、至るところにある』は、つまり“生きる”ということなんだと。それをぜひ感じてくれたらいいなと思いますね」

(取材・文:山田剛志)

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