恋は季節のようにー演出の魅力
「恋は落ちるもの、愛は育むもの」という言葉がある。
恋とは理性や意志とは関係なく芽生えるもので、愛とは、そこから時間をかけて慈しむ気持ちを育てなければならない、という意味の言葉だ。
つまり、誰かと生涯添い遂げようと思ったら、倦怠期を乗り越えて、相手を慈しむよう努力しなければならない。そうでなければ、トムとサマーのように、一過性の「季節」で終わってしまうだろう。
本作は、平凡な会社員と小悪魔的女子の出会いと別れの500日間を描いたラブコメディ。監督は本作が初監督作品となるマーク・ウェブ。トム役をジョセフ・ゴードン=レヴィット、サマー役をズーイー・デシャネルが演じる。
公開から15年近く経ちながらも、いまだに女性を中心に根強い人気を誇る本作。その魅力はなんといっても「描写のリアルさ」にある。
元カレ・元カノの話を聞いて、勝手に頭の中で想像を膨らませてヤキモキしたり、普通は欠点に思える部分も丸ごと愛せたりー。
そんな経験は、おそらく交際経験がある人なら誰しも身に覚えがあるだろう。本作に詰め込まれたそんな「恋愛あるある」が、観客の共感を呼び、心に刺さるのだ。
本作は、男性の観客がサマーに翻弄される主人公に自己を同一化させて楽しむ映画である一方、女性から観ても十分に楽しめる仕上がりになっている。それはひとえに、サマーのマインドの変化がきわめてリアルに描き込まれているからに他ならない。
男性から見るとサマーの言動や心変わりは、「理不尽」「ひどい」と思わせるようなところがある。しかし、セリフで表現されるとおりサマーのスタンスは「誰かの所有物になるのが嫌」であるという点で一貫している。
主人公は「自分のために」彼女に過度な貞淑さを求め、自己に忠誠を誓わせるために躍起になっているようなところがあり、いざという時は女性よりもロマンチックになってしまう男のサガを観察できるという点で、本作は、女性目線で観ると「男あるある」として楽しめる作品でもあるのだ。