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奥行きを活かした構図で観客を迷宮に誘う~映像の魅力~

撮影を担当したのは、キューブリックの前作『2001年宇宙の旅』でもカメラを担ったジョン・オルコット。360度の旋回カメラワークや手持ち撮影を駆使して、息詰まるような迫力の映像をものにしてみせた。

小型カメラを構えるキューブリック。随所で自身が撮った映像も使われている
小型カメラを構えるキューブリック随所で自身が撮った映像も使われているGetty Images

フォトグラファー出身のキューブリックは、キャリアを通して視覚効果を追求し、新しい技術を貪欲に取り込んでいった。本作では、彼が生涯で最も愛用したカメラである、アーノルド&リヒター社製の「アリフレックス35IIC」を初めて導入。小型で機動力に優れた同カメラによって、“ドルーグ”たちの自由奔放なアクションが、きわめて躍動的に捉えられている。

キューブリック作品特有の広角レンズを用いた奥行きのある縦の構図が、要所要所で鮮烈な印象を残す。アレックスのアップからゆっくりと後退し、縦長の部屋全体を映し出す冒頭の移動撮影、“ドルーグ”のメンバーが川に面した道を歩くスローモーションなどが、代表例として挙げられるだろう。

映画『時計じかけのオレンジ』の1シーン。左右に人を並べることで奥行きを創り出している【Getty Images】
映画時計じかけのオレンジの1シーン左右に人を並べることで奥行きを創り出しているGetty Images

奥行きのある構図へのこだわりはラストカットにも見られる。真っ白な壁を背景にした抽象的な空間で、アレックスは裸の女性とセックスに興じる。画面の左右には貴族風の衣装を着た大勢の見物客が列をなしており、それによって奥行きが創り出されている。キューブリックは、迷宮の入り口を思わせる奥行きのある構図を駆使することで、ラストカットの謎めいた印象を際立たせることに成功している。

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