ホーム » 投稿 » 海外映画 » レビュー » 映画「時計じかけのオレンジ」気持ち悪いけどクセになる史上屈指のカルト映画。実はコメディ?<あらすじ 考察 解説 評価> » Page 7

物語を牽引する音楽の力に酔いしれる

映画『時計じかけのオレンジ』の1シーン。耳を塞ぐアレックス
映画時計じかけのオレンジの1シーン耳を塞ぐアレックスGetty Images

本作では映像と同等、あるいはそれ以上のウェイトで音楽が重要な役割を果たしている。主人公のアレックスはクラシック愛好家という設定であり、中でもベートーヴェン作曲「交響曲第9番」がお気に入り。同曲の第2楽章と第4楽章(歓喜の歌)は、ターニングポイントで鳴り響き、シーンによって全く異なる効果を発揮する。

序盤では、暴力行為をたっぷり楽しんだ後、帰宅したアレックスがカセットテープで第二楽章を聴き、幸福な眠りにつく。物語が中盤を迎えると、逮捕されたアレックスは、人格矯正プログラム・ルドヴィコ療法の被験者に選ばれる。瞼を固定され、ノンストップで残虐な映像を見せられる中、BGMとして鳴り響くのが「交響曲第9番」だ。この経験からアレックスは、「第9」を聴くと、吐き気と頭痛に襲われるようになる。

治療を受けて出所したアレックスは、かつての仲間からリンチされ、過去に因縁のある男性作家に助けを求める。作家は初め、アレックスの正体に気づかず、突然の訪問を親切に受け入れるが、心温まる交流はすぐに終わりを迎える。作家が彼の正体に気づくきっかけとなるのは、アレックスが浴室で歌う「雨に唄えば」のテーマ曲である。かつて暴行を受けた際、主犯格の青年はこの曲を口ずさんでいた。音楽によって忌まわしい記憶を蘇らせた作家は、薬物でアレックスの身動きを奪い、大音量で「第9」の第4楽章を流し、彼を自殺に追い込もうとする。

かろうじて生き延びたアレックスは、息を吹き返すと、ルドヴィコ療法の呪縛からすっかり解放されている。アレックスが本来の邪悪さを取り戻したことがわかるのは、大音量で流れる「歓喜の歌」を恍惚とした表情で聴くからだ。本作ではアレックスの人格の変化が、ベートーヴェンの楽曲を反復させることによって、ダイナミックに描かれているのだ。

音楽を担当したウォルター・カルロス
音楽を担当したウォルターカルロスGetty Images

音楽を担当したのは、シンセサイザー演奏の先駆者として名高い、鬼才ウォルター・カルロス、(後に性転換をしてウェンディ・カーロスに改名)。「第九」を電子音楽化した「時計じかけのオレンジ~マーチ」は、一度聴けば頭から離れないインパクトを放つ。

【主な使用楽曲】
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン『交響曲第9番ニ短調』
ジョアキーノ・ロッシーニ『ウィリアム・テル』序曲
エドワード・エルガー『威風堂々』第1番、第4番
作曲:ナシオ・ハーブ・ブラウン 歌:ジーン・ケリー『雨に唄えば』
ヘンリー・パーセル『メアリー女王の葬送音楽』
エリカ・エイゲン『灯台守と結婚したい』
ニコライ・リムスキー:コルサコフ『シェヘラザード』

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