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映画『異人たち』のストーリー

ポール・メスカル
ポールメスカルGetty Images

人は人生の中で必ず大切な人を失う経験をする。他の人よりも失う経験が多い人もいれば、大切な人の喪失に立ち向かう術をもたない人もいる。そんな人生の孤独の刺激をスクリーンで描くことは、非常に繊細な内容であり困難の伴う作業だ。

観客の共感を誘うためには親密性が高くなければならない。大きな問題を語りつつも、主人公の旅路に焦点を絞る必要があるのだ。映画『ヘレディタリー/継承』(2018)のようなホラーから、映画『ゴースト ニューヨークの幻』(1990)のようなロマンス作品のように、映画でも悲しみはさまざまな形で描かれてきた。

この分野の映画には、大成功もあれば失敗もあるが、幸運なことに、アンドリュー・ヘイ監督の映画『異人たち』は、間違いなく成功作品であり、最近の映画の中で最も衝撃的で美しく喪失感、愛、孤独を描写している。

新しい未来を手に入れるためには過去を清算する必要がある。ヘイ監督は映画『異人たち』を、観客が一度に様々な感情を感じられるように製作した。

本作の主人公は40代同性愛者であるアダム(アンドリュー・スコット)。アダムは12歳の頃に亡くなってしまった両親の物語を書こうと必死になり孤立した生活を送る脚本家だ。そんな所に謎の多い隣人のハリー(ポール・メスカル)が酔っ払い、アダムの部屋のドアをノックする。ハリーとの交流のうちに、アダムは心を開くようになり、2人は恋に落ちる。

しかしこのアダムとハリーのラブストーリーは映画の半分程の内容にすぎない。

ハリーと恋に落ちてほどなく、アダムは幼少期を過ごした家を訪れる。するとそこには亡くなった筈の両親が、亡くなった時の同じ年齢のまま現れ、アダムは30年ぶりの再会を果たす。彼らは自分たちが亡くなっていることを認識しながらも、アダムが今何をしているのか、ガールフレンドがいるのか、過去30数年間に起こったことを知りたがる。

そして物語後半はアダムとハリーのラブストーリーと共に、アダムが自分の過去を清算し、未来に向かって自らの心を開くという二重の筋書きを辿っていく。

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