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グランド・ブダペスト・ホテル 脚本の寸評

物語は現代から始まり、本題に入るまでに少し時間がかかる。回想シーンからまた別の回想シーンに移る、複雑な入れ子構造となっており、映画がスタートしておよそ10分後にやっとメインストーリーであるゼロとグスタブの物語が始まる。観る者の目をくらます幻惑的な構成を持つため、鑑賞者によって好き嫌いが分かれるかもしれない。

また、ゼロとグスタブが敵役であるジョプリン(ウィレム・デフォー)から逃走するシーンを始め、登場人物の行動の多くは行き当たりばったりである。彼らの命を救うのは偶然の作用によってであり、知略によってではない。その点、伏線の効いた物語展開を期待すると肩透かしを食らうだろう。ジャンル横断的な構成、入り組んだ回想シーンなど、トリッキーな仕掛けが満載だが、他方で「グランド・ホテル方式」と呼ばれる古典的な群像劇の手法も取り入れている。

「グランドホテル方式」とは、登場人物を一つの場所に集め、複数の視点から物語を展開していく手法のことを指し、映画『グランド・ホテル』(1932)に端を発するとされている。本作の脚本は「グランドホテル方式」を用いた古典的な設定と、型にはまらない物語展開という相反する要素が混在した、一癖も二癖もあるシナリオなのだ。

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