扇情的な三文小説を重厚な人間ドラマに昇華した脚本の魅力
原作はアメリカの小説家・マリオ・プーゾが1969年に発表した同名のベストセラー小説。原作では映画の内容にも増して、暴力と性にまつわる描写が豊富に盛り込まれており、扇情的な三文小説として知られていた。
プーゾと共に脚本を担当したコッポラは、原作からポルノ的で低俗な要素を排除。一家の長でありマフィアのボスであるヴィトーと、誠実な魂を持つ三男マイケルを軸にした「継承される血の物語」として再構成することで、壮大なスケールを誇るファミリードラマに仕立て上げた。
序盤ではおよそ20分間に渡り、ヴィトーの娘・コニー(タリア・シャイア)の結婚式の模様が描かれる。主要な登場人物を一つの場所に集め、キャラクターの特徴と人間関係を端的に描写することで、後の展開に伏線を張り巡らす秀逸なアイデアだ。
文豪・ドストエフスキーの名作『カラマーゾフの兄弟』にインスパイアされたと思しき、素質の異なる三兄弟(ソニー、フレド、マイケル)の描き分けも見事。知略に優れるマイケルにはカラマーゾフの次男イワンの面影があり、家族との関係で苦悩する点も共通している。
優れた点を挙げれば枚挙に暇がない一方、暴力組織を外部から相対化する視点は描かれておらず、マフィア賛美につながる側面があることは否めない。物語の構築力には突出したものがあるものの、モチーフとなったマフィアの描き方において、若干の問題点を含んだ脚本だと言えるだろう。