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的確なカメラワークでキャラクターのコンプレックスを鮮やかに表現

撮影監督を務めたのは、日系アメリカ人二世のタク・フジモト。ジョナサン・デミ監督とは名コンビとして鳴らし、M・ナイト・シャマラン監督の出世作『シックス・センス』(1999)のダークで冷たい映像を手がけたことで知られる。

本作の撮影を手がけた日系アメリカ人のタク・フジモト
本作の撮影を手がけた日系アメリカ人のタクフジモトGetty Images

クラリスが初めてレクターのもとを訪れるシーンでは、彼女の主観ショットを巧みに交えて、緊張感を盛り立てる。この場面では、他の囚人たちがクラリスの姿を見るなり、興奮した様子で彼女に接近しようとするのに対し、レクターは落ち着き払った態度で出迎える。初めは距離を置いて言葉を交わしていたものの、レクターはクラリスに身分証明書を見せるように要求し、クラリスの方からレクターに接近。それに合わせてカメラもレクターに近づき、初めて彼の顔をクローズアップで映し出す。登場人物の動き、状況の変化、それに伴う感情の揺らぎを的確に捉えた、お手本のようなカメラワークである。また、他の囚人たちのアクションをフリに使う演出も効いている。

クラリスの主観ショットは他のシーンでも見られ、興味深い効果を発揮している。クラリスが上司のクロフォードとともに被害者の検死に立ち会うシーンでは、屈強な地方警官たちに囲まれ、「女に殺人事件の捜査が務まるのか?」と言いたげな男たちの怪訝な顔が、クラリスの主観ショットによって映される。これは、ストーリーを伝える上で、必ずしも必要ではないカットだが、キャラクターの隠された内面を明らかにする重要な細部である。映画全編を通して、クラリスが男たちから見られ、見つめ返す描写を丹念に積み重ねることによって、男社会を生き抜くことの厳しさと、彼女のコンプレックスが繊細に表現され、物語に厚みと奥行きをもたらしているのだ。

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