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パルプ・フィクション 演出の寸評

物語の本筋とは関係のない無駄話、過去と現在が混在する複雑な構成、アクの強いキャラクターと唐突な展開、そして悪趣味スレスレの暴力描写ーー。映画界屈指の個性派にして、指折りのシネフィル(映画オタク)監督であるクエンティン・タランティーノの監督第二作。プロローグとエピローグを合わせた4つのエピソードがオムニバス形式で描かれる。

どのエピソードも「強盗」「麻薬」「監禁」「殺人」といった血生臭い出来事がモチーフとなっているが、コミック的なカット割とヒネリの効いた演出によって決してシリアスにならず、随所で笑いを誘発する。

車で移動中のヴィンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)が、後部座席の人質を誤って銃殺してしまうシーンでは、ヴィンセントの顔に不自然なほど大量の返り血が飛び、血まみれの車内でちんたら口論をする2人のやりとりは滑稽そのもの。ヴィンセントとジュールスはその後、死体処理のプロフェッショナル・ウルフ(ハーヴェイ・カイテル)の助けを借り、彼の家で血まみれのスーツから可愛いプリントTシャツに着替える。

このように、所々で「ハズし」の演出が施されることによって、過激な暴力シーンが続く展開にあっても、鑑賞者はポップコーンに伸ばす手を止めることなく、終始ニヤニヤしながら画面に視線を注ぐことができるのだ。 第47回カンヌ国際映画祭で、最高賞となるパルムドールを獲得した本作のタランティーノ演出は、優れた点を上げればいとまがない。

他方、ブッチ(ブルース・ウィリス)とマーセルス(ヴィング・レイムス)が質屋の地下に監禁される場面における2人の掛け合いはくどく、間伸びしており、緊迫感を削いでいる。タランティーノは後に『イングロリアス・バスターズ』(2009)などの作品において、緊張感みなぎる拷問シーンを本格的な演出で描いており、それと比べ合わせると、本作では度を超えて「ユルイ」演出が目立つのも事実。

これらの点を鑑みると、本作はタランティーノのフィルモグラフィにおいて、“映画オタク”からプロフェッショナルな“映画監督”へと脱皮する「過渡期」にあたる作品であると見なすこともできるのではないだろうか。

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