ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 脚本の魅力
原作は、アメリカの作家・アプトン・シンクレアが1927年に発表した小説『石油!』。タイトルは旧約聖書から引用されており、「いずれ血に染まる」といったニュアンスを持つ。映画版と原作とでは相違点も多く、後者の主人公は「父」ダニエルではなく、「息子」H・Wである。
また、原作では南カリフォルニア石油産業の腐敗がストレートに批判されており、「父」は資本主義のもとで利益追求に奔走した挙句、死に追い込まれる人物として描かれている。
一方、映画版の「父」は挫折することなく石油王にのぼり詰め、巨万の富を得ることに成功するが、その弊害として天涯孤独の身となる。主人公の「挫折」によって利己心に根ざしたアメリカ式の資本主義を批判する原作に対し、映画版では主人公の「成功」を描くことで、他を顧みない人間の欲望や、行き過ぎた資本主義の悲惨な末路を浮かび上がらせるのだ。シリアスなトーンで主人公の成り上がりを物語る一方、恐怖と笑いが紙一重となった表現も光を放っている。
無神論者のダニエルと宣教師のイーライ(ポール・ダノ)が対決するラストシーンを見てみよう。鬼のような表情で「たとえばお前がミルクセーキを持っていたとしよう。そしたら俺は長いストローでそれを飲み干してやる!」と叫ぶダニエルはのセリフは、おぞましさを超えて滑稽であり、むき出しとなった欲望はどこか崇高ですらある。
本作の物語は観る者を複数の感情で引き裂き、言葉にならない体験を強いるという点で、エネルギッシュな魅力に満ちあふれている。