ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 配役の魅力
主役のダニエルを演じた、ダニエル・デイ=ルイスは本作で第80回アカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得。ロバート・デ・ニーロに勝るとも劣らない、ハードな役作りで知られる名優である。ダニエル・プレインビューを演じるにあたりおよそ1年もの時間をかけ、その間、20世紀初頭の録音記録を耳にすり込ませ、発声レベルで当時の雰囲気を再現することに成功している。
また、PTAの指示のもと、ジョン・ヒューストン監督作品『黄金』(1948年)を繰り返し鑑賞し、演技の参考にしたという。私利私欲の塊であるダニエルは「隣人愛」を説くキリスト教的な価値観とは相反する存在である。
その点を鑑みると、ダニエルにとって真にライバルと呼べる存在は、弟を名乗って取り入ろうとするヘンリー(ケヴィン・J・オコナー)でも、独立意志を露わにする息子のH・W(デヴィッド・ウォーショフスキー)でもなく、宣教師のイーライに他ならない。
土地を手に入れるため仕方なく洗礼式に参加し、キリスト教への信仰を表明するシーンでは、神を信じる「フリ」に徹することができず、「本音」を吐くことで神を侮蔑するダニエルに対し、平手打ちを連発し、半ば強引に水をぶっかけるイーライのアクションが見ものである。このシーンはラストに反転した形で繰り返される。今度はダニエルがイーライに対し「神の不在」を認めさせようとするのだ。
そして、イーライは自身の利益のために、いとも簡単に神の不在を認めてしまう。
注目すべきは、ダニエルによるイーライの殺害が、神を侮蔑する発言をしたイーライに対する「天罰」のように見える点である。「俺こそが神だ」というセリフが表現しているように、ダニエルは神を憎んでいるにもかかわらず、ある意味で誰よりも神の意志を体現しているように見えるのだ。
この強烈極まりない皮肉を見事に表現することで、ダニエル・デイ=ルイスは、稀代の名演を成しとげている。