ハードエイト 映像の寸評
撮影を担当するロバート・エルスウィットは、ロブ・ライナー監督『シェア・シング』(1985)やカーティス・ハンソン監督『ゆりかごを揺らす手』(1992)といった低予算の小品で腕をふるってきた、職人肌のカメラマンである。
本作もまた、ハリウッドのブロックバスター(大作映画)に比べて予算規模は著しく小さいものの、適材適所のカメラワークと魅惑的なロケーションによって、大作映画に負けずとも劣らない重厚感を醸し出すことに成功している。
主人公・シドニーの足取りをステディカムカメラで追っていくスムーズな長回しカットは、後の作品でも大いに活用される、PTAのシグネチャーカットである。シグネチャーカットとは、映画監督の署名(シグネチャー)が刻印されたカットのこと。
ロバート・エルスウィットは、流麗な移動撮影を巧みに織りまぜ、カジノのきらびやかな空間を活写するとともに、そこに集う人々の表情も鮮明に捉えている。フロアを練り歩くシドニーを追っていたカメラは、突然視線を横にふり、賭け事に興じる客たちを映し出す。
そして、シドニーが再び視界に入ってくると、程なくして歩みを止め、重々しくも慣れた手つきでポーカーに着手する。単に主人公の行動を映し出すのみならず、空間全体の雰囲気を豊かに伝える映像の力は、長編デビュー作から突出している。
PTAとロバート・エルスウィットのコラボレーションは、2014年の『インヒアレント・ヴァイス』までおよそ20年近くにも渡って続くことになる。