世界的歌手・ビョークによる憑依型演技に注目
本作について語る上で、主人公・ビョークの演技は外せないだろう。
息子の幸せを願い、息子のために全てを捧げようとするセルマ。そんな母の「無償の愛」を、ビョークは歌うような演技で表現。カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得した。
なお、トリアーによれば、当初ビョークは音楽のみを担当するつもりで、出演を頑なに断っていたという。しかし、曲作りをするうちにセルマの人生そのものに深く共鳴し、「この役は自分にしかできない」と確信するようになり、出演を承諾。ビョークの演技は、まさにセルマ本人が憑依したと錯覚するような迫真の演技である。
また、脇を固める役者陣の演技も注目である。キャシー役の大女優カトリーヌ・ドヌーヴは、堂に入った自然な演技でセルマの生活をサポートし、セルマの悲しみに共感する。そして、ビルを演じるデヴィッド・モースは、生活のためにやむを得ずビョークに牙を向くという難しい役柄を見事に演じ切っている。
撮影中、トリアーと何度も衝突を繰り返したというビョーク。一時は現場から離れ、降板も辞さない構えだったとのことだが、それでもトリアーは彼女を待ち続けた。ビョークを起用した時点で、本作の成功は約束されていたのかもしれない。