90年代香港の熱気を映した即興演出〜演出の魅力
本作は、香港・九龍にある雑居ビル・チョンキンマンション(重慶大厦)を舞台に男女4人の恋愛模様を描いたウォン・カーウァイの長編作品。前半と後半の2部構成で、前半に金城武とブリジット・リンが、後半にトニー・レオンとフェイ・ウェンが出演している。
長編第1作『いますぐ抱きしめたい』がカンヌ映画祭の批評家週間でカメラドール(最高賞)を受賞し鮮烈なデビューを果たしたカーウァイ。4作目となる本作は、香港電影金像奨(香港アカデミー賞)で優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(トニー・レオン)の3冠を達成したほか、本作を絶賛したクエンティン・タランティーノが配給権を購入するなど、カーウァイの名を世界にとどろかせることになった作品として知られる。
さて、そんな本作の特徴は、なんといっても即興演出ならではの自由さだろう。長編作品『楽園の暇』の製作が中断している合間に撮影されたといわれる本作には、とにかく映画が撮りたくて仕方がないという監督の無邪気な遊び心に満ち溢れた作品に仕上がっている。
また、本作の舞台である香港の姿も印象的。街に煌めくネオンサインや数々の屋台が街を彩るジャンクな日常風景、そして様々な国籍の人々が行き交う香港の雑踏の熱気は、アジア好きにはたまらない。
なお、本作の公開は1995年。香港がイギリスから中国に返還される2年前である。そういう意味で、本作はかつての香港の姿が描かれたフィルムとしても歴史的な価値を持っているといえるだろう。