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大量消費社会を舞台に描かれる男女の恋愛〜脚本の魅力

ウォン・カーウァイはシナリオも担当している
ウォンカーウァイはシナリオも担当しているGetty Images

全編即興演出で撮られた本作には、脚本などあってないようなもの。しかし、のちのカーウァイ作品にも登場するモチーフや、カーウァイならではの発想が随所にちりばめられている。

例えば、第1部と第2部の始まりを告げるシーン。金城演じる刑事・モウ(刑事223号)がそれぞれブリジット・リン演じる謎の女と、フェイ・ウェン演じるフェイとすれ違う。映像はストップモーションとなり、彼のモノローグが流れる。

そのとき、彼女との距離は0.5ミリ―57時間後、僕は彼女に恋をしたー。
そのとき、彼女との距離は0.1ミリ―6時間後、彼女は別の男に恋をしたー。

すれ違いから始まる一瞬のアバンチュール。キャッチコピーにもなったこのセリフは、まさに都市における男女の表層的な恋愛関係を表している。そしてこのテーマを端的に表すモチーフが「缶詰」である。

例えば第1部では、モウが失恋した悲しみを、賞味期限が自分の誕生日で切れる缶詰を買うことで埋め、最終的に失った恋人が缶詰と大差ないことに気づく。ここには、あらゆるものが大量生産される消費社会では、人間の愛にも賞味期限があり、代替可能であるという悲しい現実が垣間見える。

一方、第2部で登場するフェイはこの記号を逆手に取る。警官663号の部屋に忍び込んだフェイは、トマトとしょうゆのイワシの缶詰のラベルを貼り直して棚に並べ直す。知らずに缶詰を口にした彼は、違和感を覚えながらも、麺との相性は悪くないと思う。彼女は、むしろ大量消費社会における記号をいじくることで、彼の胃袋をつかむのである。

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