フェイ・ウォンの無邪気な演技に注目〜演技の魅力
本作のMVPは、第2部のヒロインを務めたフェイ・ウォンだろう。
警官663号の部屋に忍び込み、ころころと表情を変えながらイタズラを仕掛ける彼女。おそらく現実にいたらヤバいやつ認定されるのは確実だが、彼女持ち前の愛嬌とキュートさでとても魅力的なキャラクターに仕上がっている。その無邪気さは、刹那的な人間関係をテーマとする本作にぴったりである。
なお、制作では彼女は、あくまでのびのびと自然体で演じることで役柄を表現。相手役のトニー・レオンは、彼女の無邪気に翻弄され、自らの演技プランを完全に放棄してフェイの演技に身を任せていたという。なお、彼女の役柄は、本作で唯一、彼女の本名と一致する。その点、本作は、素の彼女にスポットを当てたドキュメンタリーとしての特徴も兼ね備えているといえるかもしれない。
なお、彼女以外の3人の役者も、豊かな演技を披露している。電話に向かってたどたどしい日本語を披露する新人俳優・金城武の色気、サングラスの奥に透けて見えるブリジット・リンの気高さ、石鹸や雑巾に向かって語りかけるトニー・レオンの哀愁ー--。
こういった役者の魅力は、まさにカーウァイ自身の演出力の賜物である。