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ブラック・スワン 演出の魅力

バレエ『白鳥の湖』の主演に指名され、無垢な白鳥と官能的な黒鳥の二役を演じることになった踊り子が、重圧により精神のバランスを崩していく姿を描いた、ニューロティック(神経症的)な色合いが強い、サイコサスペンスである。主人公・ニナ(ナタリー・ポートマン)のヒステリーが激しさを増すにつれ、現実と幻覚のボーダーは曖昧になっていく。

ニナの精神の変調は背中の痣(あざ)や、ひび割れた爪といったフィジカルの異変として現れ、観る者の痛覚を刺激。終盤になると、背中の痣からは黒い羽が生え、映画は一気にファンタジーの領域に足を踏み入れる。鏡を活用した演出も見応えがあり、虚構と現実の葛藤という二項対立にまつわるメインテーマと深くリンク。二項対立のテーマは色彩設計にも見出せる。

ニナとリリーが交わるシーンでは、性に対して積極的なリリー(ミラ・クニス)は黒い下着を身につけ、初心なニナは白い下着を着用しており、両者のコントラストがこれでもかと強調されている。回転するバレリーナから見た世界よろしく、理性と狂気、虚構と現実が目まぐるしい速度で入れ替わるクライマックスは強烈なカタルシスをもたらす。

一方、二項対立を強く打ち出した演出は、ともするとワンパターンになり、途中から「このシーンもどうせ幻想でしょ」と冷めた目線に晒されるリスクも。細心の演出が光る一方、精神に問題を抱えた主人公の一人称で展開される、ニューロティックタイプのスリラーにつきものの陳腐さも有しているのだ。

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