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黒澤明による時代劇版『マクベス』―演出の魅力

監督の三船敏郎【Getty Imags】
監督の黒澤明Getty images

 

本作は、1957年公開の黒澤明監督作品。主演は三船敏郎と山田五十鈴で、脚本を黒澤のほか、小国英雄、橋本忍、菊島隆三の4名が担当している。

シェイクスピアの4大悲劇の一つに数えられる『マクベス』は、スコットランド王マクベスが3人の魔女の予言に従い主君を殺すという物語で、これまでさまざまな映画の原作になってきた。黒澤は、本作の舞台を日本の戦国時代に置き換え、大胆に翻案。さらに、能楽の様式美や幽玄な世界観を導入することで、「日本ならではのマクベス」を創り上げた。

なお、本作の評価はきわめて高く、アメリカの文学批評家ハロルド・ブルームは「マクベスの最も成功した映画版」と絶賛。また、イギリスの舞台演出家ピーター・ブルックも、本作を「シェイクスピア映画の最高峰」と称している。

そして、本作を語る上で絶対に外せないのが、主人公武時の絶命シーンだろう。味方から放たれた矢が武時に豪雨のように降り注ぐという有名なシーンだが、実はこのシーンでは、大学の弓道部員が本物の矢を射っている。つまり、このシーンの三船の戦慄の表情は、決して演技ではないのだ。

なお、三船は本作品の撮影前、あまりの恐怖から眠れず、撮影日を延期したとのこと。また、撮影後も、三船は黒澤に「俺を殺す気か?」と怒鳴り、後日、無茶な撮影を行った黒澤に腹の虫が抑えられず、酒に酔った勢いで散弾銃を持って黒澤のもとに押しかけたという。

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