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美麗な映像に宿る幽玄さ―映像の魅力

監督・黒澤明(左)、主演・三船敏郎(右)【Getty Images】
監督黒澤明左主演三船敏郎右Getty Images

 

本作は、物語以上に映像を楽しむ映画でもある。

霧に包まれた森の幽玄さ、老婆の白さと森の黒さとのコントラスト。そして、能舞台のような蜘蛛巣城と、武時と浅茅をフルショットで映した厳格な構図―。そのすべてが、うっとりとするほどに美しいのだ。

壮大な蜘蛛巣城のセットも忘れてはならない。このセットは、富士山の二合目の火山灰の上に建てられたもので、天気がいい日には御殿場からも垣間見えたという。このセットの中で所狭しと繰り広げられる戦のシーンや、森が一斉に動く描写は実に壮観で、黒澤作品でしか味わえないダイナミズムがある。

また、先述した武時の凄絶な絶命シーンについても加筆しておこう。本作といえば必ず挙がるこのシーンだが、距離感が圧縮される望遠レンズで撮影されており、実際には三船と矢の距離はそこまで近くないという(それでも危険なことには変わりがないのだが)。ちなみに、三船の身体に当たる矢に関しては、矢に空洞を開け、テグスを通して的に固定するという手法が用いられている。

また、ラスト、三船の首を矢が貫くカットは、三船の首の前を矢が通った瞬間でフィルムをカットし、矢を首に装着した状態の三船のショットに編集でつなぐことで、三船の首に矢が刺さるさまを表現している。CGがない当時、あの手この手で映像トリックを考え出した黒澤をはじめとするスタッフたち。その努力には本当に頭が下がる思いだ。

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