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能面の裏に隠された人間の闇と狂気―配役の魅力

『椿三十郎』の三船敏郎【Getty images】
椿三十郎の三船敏郎Getty images

 

本作の配役といえば、まずは主演の三船と山田を挙げなければならないだろう。

武時役の三船は、『用心棒』(1961)など、どちらかというと大和魂を体現したような武士を演じることが多い三船だが、本作では鬼気迫る演技で人間の心の裏にある脆さを体現している。妄執に憑りつかれた彼がぎょろりと目をむき、敵に脅えるその様子は、他の出演作には見られない演技になっている。

そして、なんともすばらしいのは、浅茅役の山田だ。能面のような不気味な表情と抑制された所作に野心と狂気をにじませる見事な演技を見せている。特にラスト、発狂した浅茅が凄まじい形相で手についた血を洗う仕草を繰り返すシーンは、黒澤がオールタイムベストに挙げるほどの見事な演技で、思わず見入ってしまうこと請け合いだ。

なお、本作では、演技の演出にも能の様式美が取り入れられている。例えば、三船敏郎演じる鷲津は、凛々しい眉毛といかめしい口元が印象的な武将の能面「平太(へいだ)」を、山田五十鈴演じる浅茅は、顎がしゃくれた寂しい中年の女性の能面「曲見(しゃくみ)」を表しており、それぞれ謀反のシーン、発狂のシーンでこれらの能面の表情をしている。

また、役者たちは、撮影前に能を鑑賞するよう黒澤から伝えられており、実際の能楽よろしく全身で演技を表現するように指示されたという。

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