コーエン兄弟が送るゼロ年代犯罪スリラーの傑作―演出の魅力
『バートン・フィンク』(1991)や『ファーゴ』(1996)など、ブラックでシュールなコメディ映画を数多く手がけてきたジョエル&イーサン・コーエン兄弟。そんな二人が、2007年に手がけた“笑いゼロ”の犯罪スリラー映画が、この『ノーカントリー』だ。
原作はアメリカを代表する小説家コ―マック・マッカーシーの小説『血と暴力の国(No Counry for Old Men)』で、原題のタイトルはウィリアム・バトラー・イェイツの詩「Sailing to Byzantium」からの引用。公開時は、世界興行収入1億7,000万ドル超を記録し、第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされたほか、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4賞を受賞するなど、大絶賛を浴びた。
本作の高評価のポイント。それは、ひとえにバビエル・バルデム演じるサイコパス殺人鬼アントン・シガーのキャラクター造形にある。おかっぱ頭に仏頂面で、キャトルガン(屠畜用空気銃)とサイレンサー付き銃を手に、出会った人々を次々に殺戮していく様子は、まさに悪魔そのものだ。
なお、このシガー、『Empire Magazine』主催の「史上最高の映画キャラクター100人」で44位にランクインしているほか、心理学者によって「映画に登場した最もリアルなサイコパス」にも選出されており、ゼロ年代を象徴する映画キャラクターとなっている。
『ファーゴ』の主人公マージ・ガンダーソンなど、個性的なキャラクターを数々生み出してきたコーエン兄弟。世紀のシリアルキラーシガーは、彼らが生み出した最高傑作と言えるかもしれない。