シガーの異物感―配役の魅力
本作のキャスティングと言えば、やはりシガー役のバビエル・バルデムは欠かせないだろう。コーエン兄弟は、シガー役に国籍が分からない浮いたキャラクターを希望していたとのこと。その点、スペイン出身のバルデムの白人ながらどこかエキゾチックな顔立ちは、シガー役にぴったりだといえる。
バルデムは、異物感を印象付けるため、シガーの日常の動作を全てワンテンポ遅くしているという。どこか愚鈍な印象ながら、殺人となると俊敏に動くシガーは、なんとも恐ろしい。
ただ、バルデムは実はバイオレンスが大の苦手。しかも、英語も話せず、運転もできないことから、はじめは出演をかなり渋ったのだとか。ちなみに来日時は、「暴力映画は本当に苦手」「撮影中は最悪の髪型の自分を見るのが辛かった」とジョーク交じりに撮影中の思い出を振り返っている。
なお、シガー役には、バルデムのほかに『リボルバー』(2005)や『キック・アス』(2010)などで知られる悪役俳優のマーク・ストロングが候補として挙がっていたが、最終的にバルデムがオファーを承諾し、バルデムで落ち着いたという。
また、モス役は、当初『ダークナイト』(2008)のジョーカー役で知られるヒース・レジャーが演じる予定だったが、育児の関係で断られたとのこと(レジャーは2008年に急逝)。代わりに起用されたジョシュ・ブローリンは、人間味あふれる熱い演技を披露している。
なお、賞金稼ぎのカーソン・ウェルズを演じるウディ・ハレルソンは、ミロス・フォアマン監督の『ラリー・フリント』(1996)でアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた実力派俳優だ。しかし、本作では、シガーの手により実にあっけなく殺されてしまう(しかも銃殺シーンは映っていない)。主演級の大物をあえて早めに退場させることで、シガーの恐ろしさが際立つのだ。