現代物理学の世界観を表現したハードSFの金字塔―演出の魅力
『オッペンハイマー』(2023)で知られるクリストファー・ノーラン監督によるSF大作。脚本はクリストファー・ノーランと弟のジョナサン・ノーランの共同執筆で、主人公のジョセフ・クーパーをマシュー・マコノヒーが演じる。
10分しか記憶が保てない健忘症の主人公を主観視点で描いた『メメント』(2000)や、夢の世界をそのまま具現化した『インセプション』(2010)など、作品ごとに従来の映画にはない時空間を“発明”してきたノーラン。本作で彼が挑むのは、量子力学とアインシュタインの一般相対性理論を端緒とする現代物理学の世界観だ。
一般的に、地球上で起こる事象はすべて絶対的な時間と空間を前提とするニュートン力学の法則(運動の3法則と万有引力の法則)に従うことが知られている。しかし、この法則はあくまで局所的なもので、一歩地球の外へ出ると成立しなくなる。
例えば、物体は、光の速度に近づけば近づくほど時間が遅くなり(ウラシマ効果)、重力が強ければ強いほど時間が遅くなる。本作では、こういった現代物理学の世界観を、科学的な根拠をもとに表現している。
ただ、脚本からも分かるように、本作はいたずらに難解なわけではない。物語の根幹には父娘の愛や人間の有限性といったテーマが散りばめられており、科学に馴染みがない人でもしっかり楽しめる作品に仕上がっている。
ちなみに、本作の企画は、実はノーランの発案ではなく、プロデューサーのリンダ・ローゼン・オブリストと、2017年にノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者のキップ・ソーンによるアイデアで、2人が天文学者のカール・セ―ガンの『コンタクト』(1997)に携わった際に考案された。
そして、その後、脚本家としてはじめにジョナサンが参画し、疫病によって荒廃した近未来の地球を舞台とした物語を執筆。さらに、クリストファーが監督に抜擢され、現在の物語の形に落ち着いたという。
なお、ソーンは、本作に製作総指揮として名を連ねており、作中に登場する事象や数式の監修も行っている。