時空を超える愛―脚本の魅力
あらすじからも分かるように、本作では、「愛」が作品全体のテーマになっている。
まず、物語全体を貫くのは、クーパーとマーフの「父娘愛」だ。クーパーは、ラザロ計画に向かう直前、必ず生きて帰って来ることを約束し、宇宙へと旅立つ。ここから、生きて地球に戻り、マーフと会うことが物語の目的となる。そして、物語の最後にクーパーはマーフと再会し、人類全体を救うことになるのだ。
では、本作における「愛」とは一体何か。重要な示唆を与えてくれるのが、本作のヒロインである生物学者のアメリアだ。
作中では、クーパーたちが乗組員がのこる2つの惑星の内、どちらに降り立つかを問われるシーンがある。この時、アメリアは、元恋人のエドマンズがいる惑星に行きたいと言い、次のように述べる。
「愛は人間が発明したものじゃない。愛は観察可能な力よ。何か意味がある」
これに対し、クーパーは、愛が社会の安定や子孫繁栄に必要なものだと述べ、アメリアに反発する。しかし、彼女は、死んだ人への愛が社会の安定につながるのかと反論し、愛が数値化できない非科学的なものであることを前提に、次のように述べる。
「愛には特別な意味がある。私たちは理解してないだけ。私たちには感知できない高次元につながる。愛は私たちにも感知できる。時間も空間も超えるの」
クーパーは当初、この言葉をアメリアが恋人に会うための単なる口実と考え、一蹴する。しかし、物語の終盤では、彼女の元恋人がいる惑星こそ、唯一人類が生き残れる惑星であったことが判明する。そしてクーパー自身も、ワームホールの中で、次元を超えた「彼ら」の愛を目の当たりにし、自身も愛の力でマーフにメッセージを送るのだ。
ノーランは、インタビューで、次のように答えている。
「僕の父は数年前に他界したが、彼が生きていた時と全く同じ気持ちを今も抱いている。時間によって、自分の気持ちが変化していないんだ。愛というものの力はとても力強く、よく分からないものだけれど、少なくとも時間によって変わっていくものではないんだよ」
冒頭、クーパーがマーフに別れを告げるシーンでは、クーパーが「親は子どもの記憶の中で生きる」という妻の言葉を引用し、「親は子どもを見守る幽霊」であると述べる。そして、クーパーは、実際に「幽霊」となってマーフにメッセージを送り続ける。
先のノーランの言葉を借りれば、「幽霊」とは、生者の記憶の中で生き続ける色あせない死者の残像といえるかもしれない。そして、この幽霊は、「愛」が具現化したものだと言えるだろう。