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戦争が描かれない戦争映画ー演出の魅力

カンヌ国際映画祭にて【Getty Images】
カンヌ国際映画祭にてGetty Images

本作は、『青春残酷物語』(1960)や『愛のコリーダ』(1976)で知られる大島渚監督による日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド合作作品。原作は南アフリカ共和国の作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストが自身の俘虜収容所体験をもとに書いた「影さす牢格子」「種子と蒔く者」(『影の獄にて』所収)で、イギリスのロックスター、デヴィッド・ボウイや坂本龍一、ビートたけしら、演技未経験のスターたちが多数出演している。

本作の最大の特徴は、「戦争を描かない戦争映画」であることだろう。あらすじからもわかるように、本作は俘虜の収容所をめぐる日本軍と連合軍の兵士の関わり合いから、国家間の対立という戦争の本質と対立を超えた人間愛の本質を浮き彫りにする。また、俘虜に対する虐待など、第二次世界大戦における日本軍の負の側面を描いた点でも評価が高い。

また、セリアズ大尉役にデヴィッド・ボウイ、ハラ軍曹役にビートたけし、ヨノイ大尉役に坂本龍一を配するという異色のキャスティングも大きな話題を呼んだ。とりわけビートたけしと坂本龍一は、その後それぞれ映画監督、映画音楽家として羽ばたいていくことを考えても、2人にとって本作がマイルストーンとなったことは間違いないだろう。

ちなみに、本作の注目ポイントはキャスティングだけではない。4ヶ国を股にかけて行った資金調達から撮影現場でのトラブル、カンヌ国際映画祭での一大プロモーションからの落選、そして謎に包まれた照明スタッフの失踪事件と、良くも悪くもさまざまな話題を振りまいた映画だった。

また、出演者のビートたけしは、自身のラジオ番組で本作の撮影の様子やカンヌ国際映画祭での様子をことあるごとにネタにして語っている。そういった意味で、本作の制作現場自体がひとつの「戦場」であったといえるかもしれない。

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