巨匠クリストファー・ノーランが仕掛ける”映画マジック”ー演出の魅力
『オッペンハイマー』(2023)でアカデミー賞作品賞ほか7冠を達成し、名実ともにハリウッドの巨匠となったクリストファー・ノーラン。そんな彼が、「バットマン三部作」の第1作である『バットマン・ビギンズ』(2005)の成功の後に手がけた作品が、この『プレステージ』だ。
原作はイギリスのSF作家クリストファー・プリーストの『奇術師』で、脚本は、クリストファー・ノーランと弟のジョナサン・ローランが担当。主人公のアンジャーをヒュー・ジャックマンが、ボーデンをクリスチャン・ベールが演じる。
あらすじからも分かるように、ノーランが本作で挑むテーマは、マジックという映画では比較的ありふれた題材だ。しかしそこは「時間の魔術師」ノーランだけあって、一筋縄ではいかない謎めいた作品に仕上がっている。
例えば、作中では、アンジャーとボーデンの師カッターがマジックにおける3つのプロセスを説明している。
①確認(プレッジ)
観客に何かを見せてタネも仕掛けもないことを観客に確かめさせる。
②展開(ターン)
タネも仕掛けもないことを示した上で、観客が驚くことをしてみせる。タネを探しても観客にはわからない。
③偉業(プレステージ)
最後に驚くべきことを戻してみせる。
カッターのこの「三幕構成」は、実は本作の物語にもぴったりと当てはまる。①は2人の出会いからアンジャーによる復讐まで。②はボーデンが瞬間移動のマジックを行ってから、2人がお互いを騙し合うまで。そして③は2人が「最後のマジック」を披露するラストの展開、といったように。つまり本作は、マジックを扱った物語でありながら、作品自体がマジックとなっているのだ。
では、なぜノーランはテーマにわざわざマジックを選んだのか、次のページではこの点について考えてみたい。