色あせない恋愛映画の歴史的名作―演出の魅力
映画には、『ゴッドファーザー』や『スターウォーズ』など、見たことがなくても名前だけは誰もが知っている映画がいくつか存在する。この『ローマの休日』も、そんな作品のひとつだろう。
監督は、『嵐が丘』や『ベン・ハー』など数々の名作を手掛けた名匠ウィリアム・ワイラー。主演は、オードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックが務める。
映画史上最高のラブストーリーと称される本作。しかし、白黒映画ということもあり、実際に観たことがあるという人は少ないだろう。
また、あまりにも王道であるがゆえに、映画好きの中でも観たことが無い人がいるかもしれない。だが、ここではっきり言おう。本作は誰が見ても面白い、優れた作品だ。
その証拠に、海外のレビューサイトRotten Tomatosでは、なんと評論家・観客ともに支持率90%超えの快挙を達成。公開から60年を得た今も、多大な支持を集め続けている。
本作が歴史的名作である理由はさまざまだが、最も大きい要因は、オードリー・ヘップバーンだろう。
本作の公開当時、ほとんど無名の新人女優だったオードリー。しかし、本作でいきなりアカデミー賞主演女優賞を獲得し、一躍ハリウッドのトップスターの座に躍り出る。
本作には他にも、シンプルな脚本やローマの情景など、観客の心を虜にする演出が詰まっている。とりわけ、一部ではバッドエンドとの声もあがるラストシーンの演出は秀逸だ。
クライマックスの記者会見のシーンでは、ヘップバーン演じるアン王女は、1日かぎりの恋の相手が記者であったことを初めて知る。握手をかわし、互いに自己紹介をする両者を見つめる聴衆は、2人の関係性を知らない。知っているのは観客だけである。
ウィリアム・ワイラーは、情緒的な演出を排し、初対面のフリをする2人をドライに描写することで、悲劇性をことさら強調するのではなく、シーンにさらりとした印象を与え、映画全体を軽やかなトーンに保つことに成功している。
たしかに、王女と一般市民の身分の違いが最後に明らかになることで、ちょっぴり残酷な印象を与えるラストシーンではある。しかし、会見場をあとにするグレゴリー・ペックを正面から長まわしで捉えたカットは、どこかまだ夢の中にいるような、ふわふわした足取りと、思い出に浸る彼の微笑みを(微妙にではあるが)しっかりと映し出しているように見える。
彼はアン王女との恋を噛みしめつつ、自分の人生へとゆっくり戻っていくのだ。バッドエンドなのか、前向きな終わり方なのか、玉虫色に包む演出は作品に神秘性を与え、幾度もの鑑賞に堪える、名作映画特有の強度をもたらしていると言えるだろう。