シンプルだからこそ強いストーリー―脚本の魅力
あらすじからも分かるように、本作の物語はとにかくシンプルだ。
なにせ、「日常から逃げ出した王女と新聞記者との身分違いの恋物語」と言ってしまえば、本作の物語は大体伝わってしまう。
物語がほぼ画面の中で完結しているのも、本作の分かりやすさの大きな理由だろう。映画によっては、セリフで状況や背景を説明する作品もあるが、本作にはそういった演出はほとんど見られない。
「絵で語る」ということを徹底しているからこそ、いちいちセリフを追わなくても映像だけで物語がつかめてしまうのだ。
とはいえ、シンプルだからといって決して退屈なわけではない。思わず吹き出してしまうコメディシーンから血湧き肉躍る乱闘シーン、さまざまな要素が宝箱のように詰め込まれており、物語としてのクオリティは著しく高い。
なお、公開当初、本作の脚本は、イギリスの脚本家であるイアン・マクレラン・ハンターが執筆したものと考えられていた。
しかし、後年、実は別の人物が脚本を描いていたことが明らかになる。その人物こそ、ダルトン・トランポだった。
トランボは1950年代のハリウッド黄金期に活躍した脚本家で、『恋愛手帖』(1940年)や『ジョニーは戦場に行った』(1971年)など、数多くの名作を手掛けてきた。
しかし、戦時下に共産党に入党していたトランボは戦後、アメリカ政府による共産党員弾圧運動である「赤狩り(マッカーシズム)」のターゲットになり、「ハリウッド・テン」(赤狩りで投獄された10名の映画関係者)の1人として禁固刑に処されてしまう。
つまり本作は、赤狩りの対象となっていたトランボが、自らの素性を隠して執筆した物語だったのだ。
なお、トランボの人生については、彼の伝記映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)が詳しい。気になった方はぜひ見てみてほしい。