オードリー・ヘップバーンの気品あふれる美貌―配役の魅力
先述の通り、本作が歴史的名作になったのは、オードリー・ヘップバーンの魅力によるところが大きい。オードリーは作中で、気品漂う王女としてのパブリックな顔と、自由奔放で可愛らしいプライベートな顔を見事に演じ分けている。
最も象徴的なのは、作中でアンが美容院に寄るシーンだろう。それまでの王女としての自分を脱ぎ捨て、ありのままの自分に生まれ変わる彼女の姿に、見ている側も思わず笑みがこぼれてしまうこと請け合いだろう。
なお、彼女のショートカットヘアは、「ヘップバーンカット」と呼ばれ、その後日本国内でも社会現象になる。
そして注目は、ラストの記者会見のシーンだ。ジョーをはじめとする各国の記者に引見したあと、玉座に戻り、振り返ってジョーをじっと見つめる。それだけのシーンなのに、王女としての凛とした表情から、素のアンの切なさがにじみ出る。観る人の胸に染み入る歴史的な名シーンだ。
なお、アン役には当初エリザベス・テーラーやジーン・シモンズの名前が挙がっていたが、さまざまな事情から実現せず、大スターのグレゴリー・ペックを起用していることから、低予算で出演してくれる女優を探していたとのこと。
そこで、最終的にオードリーが出演する『素晴らしき遺産』(1950年)を観たパラマウント社の制作部長がオードリーの才能を見初め、声をかけたという。
ちなみに、ヘップバーンが演じたプリンセスは、「ヨーロッパ某国の王女」とだけ説明があり、劇中で具体は明らかにされていない。
周知のとおり、ヘップバーン自身はイギリス出身であり、役名の「アン」はイギリスではポピュラーな名前であることから、同国をモデルにしているのではないかと考えられそうなものだが、本作でアンが最初に訪問する国が当のイギリスであることから、その線は消える。
個人的には、“世界一美しい”とも称されるスウェーデン王室あたりがモデルになっているのではないかと推測するが、本当のところは誰もわからない。何はともあれ、観る者が映画に描かれていないバックボーンに思いを馳せたくなる、映画史上に残る名ヒロインであることは間違いないだろう。