ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » “推し”が性加害…裏切られたファンは何を思う? 映画『成功したオタク』徹底考察&評価。推し活ブームに一石を投じる衝撃作 » Page 5

買い集めた推しのグッズを“供養”する名シーン

『成功したオタク』
収賄を犯し服役中の朴氏を信じ、その存在に支えられている人々を目の当たりにしたことで、未だに推しのアイドルを信じているファンの心情を推察できたという見方もできるし、推しを信じようとする人々にインタビューをすることで、彼女たちをこれ以上傷つけまいとする配慮も感じる。

また、朴氏の支持者が、一方的に早口でまくしたて、会話にもならない経験を通じて「(妄信的な人間と)話をしてもムダ」という結論に達したのかも知れない。

こうしてみると、最もシンプルで楽な解決法は「推しのことを全て忘れる」なのかもしれない。実際、作中では、セヨンとその友人が、買い集めたジュニョンのグッズを“供養”するシーンもある。しかし始めてみると、「あれは捨てられない、これも捨てられない」と、なかなか処分が進まない。ファン心理を上手く突いたシーンだ。

推しがいる人にとっては、胸が苦しくなり、切なくなるだろう。

見る側の価値観によって、受け止め方が変わる作品だが、日本でも「推し活ブーム」が起きている中、その描写は切ないものだ。

特に、推しに出さずにいた手紙や、推し活をしていた頃の日記を読み上げるシーンでは、繊細な言葉選びから、セヨンが感受性豊かな人物であることが垣間見える。

しかし、どのオタクのインタビューも辛いものだったにも関わらず、セヨン本人をはじめ、涙を流すものはいない。セヨンは監督として、傷つきつつも前進しようとするオタクたちの姿を収めることにしたのだろう。

ある日突然、推しが犯罪者になったことで、美しい思い出が破壊され、自分のアイデンティティが無惨に踏みにじられても、オタクはその後も生きていかないといけない。

セヨンはそういうメッセージを本作に込めたのだ。よって、涙は不要なのだ。例え、オタクたちが未だに心で泣いていたとしても。

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