西岡徳馬の機転によって生まれた神シーン
本作は、家康をモデルとした虎永の立身出世の物語という先入観を持って見ていたが、最終回のラストシーンは、大いなる余白を感じさせ、いい意味で裏切られた。
そんな本作の中で、“神回”といえるのは第8話の1つのシーンだ。
この回のクライマックス、虎永は石堂への降伏を認める書簡への署名を求めるために家臣たちを集める。家臣たちはこれを拒否するが、虎永は「日の本の存続のため」だとして、頑として譲らない。
これを聞いていた虎永最大の腹心にして幼馴染の戸田広松は、気を変えぬならここで切腹すると申し出る。広松は、異を唱える家臣に「黙らぬか!」と声を荒げ、ここから、広松と虎永の2人の間の話であるとする。
2人は、「家臣が犬死に」「逆らう決断」という言葉を使って、声を張り上げて言い合う。その2人の間には、視線のみの無言の会話もある。察した広松は、虎永に全てを託すことを決め、「今生のお別れにございまする」と首を垂れる。
息子の文太朗を介錯人に指名した広松は「決して殿を見捨てるでないぞ。たとえ殿が、御自ら命をお捨てになったように見えてもじゃ」と息子に言い残して切腹する。文太朗の介錯によって虎永の目の前を広松の首が転がる。長年の親友の命が自らのために果てる様を、虎永は震えながら見つめる…。
このシーン、当初は広松は切腹せず、虎永の眼前で5人の家臣たちが切腹するという脚本だったという。しかし、これではインパクトに欠けると考え、最終的に広松のみが切腹する展開に変更された。
「実は、自分だけ切腹するというのは、僕のアイデアだったんです」と、広松役の西岡徳馬は明かしている。その方が、静けさや潔さが生まれるし、主君のために自分を犠牲にする武士道がより引き立つと、西岡は考えたのだ。