選ぶのは“2人の愛”か“夢の成就”か?~脚本の魅力
本作の脚本は、古き良きミュージカル映画の定番である「芸能界の内幕物」と呼ばれるものである。主人公・ミアとセバスチャンは、それぞれ女優とジャズピアニストを目指しているが、なかなか芽が出ない。こうした状況の中、セバスチャンは売れ線のバンドに加入する。夢を追い続けるミアと、現実に妥協するセバスチャン。このすれ違いが徐々に2人の間に亀裂を生む。
ポップな演出の中にも、「夢追い人」の苦労がこれでもかと描写されている(ちなみに、審査員がミアの演技を中断して電話に出るオーディションのシーンは、主演のゴズリングの実体験から着想を得たものだという)。
しかし、一般的な「内幕物」とは異なり、本作で描かれているのはあくまで2人の「主観の世界」でしかない。ミアのルームメイトやセバスチャンのバンド仲間など、キーとなる人物は何人か登場はするものの、その存在感は、脇役というより「バックダンサー」と言ってしまった方がいいくらい希薄なのである。
ミアとセバスチャンの主観から構成された物語。こういった物語からは、例えば新海誠監督の『秒速5センチメートル』をはじめとする「セカイ系」(個人の恋愛関係が、社会を超えて世界の問題に直結する物語構造)の作品を連想できるかもしれない。しかし、「夢追い人」であるミアとセバスチャンは、何より社会での成功を望んでおり、そのためには、主観の世界から抜け出し、“他者”に認められる必要がある。
ちなみに、タイトルの「ラ・ラ・ランド」とは、「夢見がちな人」という意味。愛をとるか、夢をとるかー。この二者択一は、同じ境遇の人々には深く刺さるテーマだろう。