リドリー・スコットが監督する可能性があった? 名作『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、製作の裏エピソードを紹介
株式仲買人のジョーダン・ベルフォートの回想録をもとに、ウォール街の金と人間を描いた映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。本作の製作はギャング映画でお馴染みのスコセッシ監督が担ったが、実は『グラディエーター』のリドリー・スコット監督が、製作をする可能性もあった。今回はその内容を米Colliderを参考に紹介していく。
もしも映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』をリドリー・スコットが監督していたら…?
近未来SF映画『ブレードランナー』(1982)や、歴史大作の映画『グラディエーター』(2000)の製作を務めるリドリー・スコット監督。
彼のナポレオン・ボナパルトの伝記、映画『ナポレオン』(2023)が、12月に日本公開を迎える。
最新作となる映画『ナポレオン』では、映画『グラディエーター』で共演した名俳優ホアキン・フェニックスとの再共演が決定。そのため、早くもファンは、スコット監督と、ホアキン・フェニックスがタッグを組み、製作される歴史大作に大きな期待の声を寄せている。
しかし、『グラディエーター』で一度タッグを組んだことのある2人が織りなす本作が、どのような作風になるかは、なんとなく想像することが可能である。
しかし、その歴史大作の製作などで人気のあるリドリー・スコット監督が、全く異なる種類の大作映画製作に、一度起用されたことをご存知だろうか?
それが、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』である。
本作の主人公であるジョーダン・ベルフォートは、1929年以来最悪の暴落である「ブラックマンデー」を経験し、彼の所属していたLFロスチャイルドは破産する。
しかしそこで彼は自身の営業スタイルを形成し、そのアグレッシブなスタイルで、最終的に自身のビジネス、「ストラットン・オークモント」を築き上げる。
同社は、ベルフォートの「パンプ・アンド・ダンプ」スキームを利用。「パンプ・アンド・ダンプ」の仕組みは、まず、価値の少ない株に対し、誤解を招くようなマーケティングを行う。
その結果、投資家が、元々価値のなかった株の価格が急速に上昇するのを確認する。その後、さらに多くの投資家がその株を購入する。
このように株の価値を人為的につり上げ、顧客に対し、高値で売却する。しかしいったん売買が成立すると、株は適切な評価額に修正され、暴落する。
株を購入した投資家は、ベルフォートと彼の会社「ストラットン・オークモント」に支払った実際の金額よりも、最終的にはるかに低い価値の株を購入したこととなる。
自分の会社を捜査するFBIの目を躱すため、ベルフォートは、ヨーロッパの友人や家族を利用してスイスに銀行口座を開設し、資金を密輸する。
その結果、ベルフォートは、22ヵ月間刑務所に服役する。釈放後は講演家となり、営業テクニックを人々に教え、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』という自身の半生を綴った本を執筆する。
ベルフォートは、2009年までに詐取した約1,500人の顧客に、出版の収入の半分を支払い、さらに総額1億1,000万ドル(160億5千万円)の返還を行うことを義務付けられた。
その後、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、出版前に映画化の権利購入の争いが起きる。
最終的に、ドラマシリーズ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』(2010〜)の製作総指揮を務めたテレンス・ウィンターがその脚本を担当。
マーティン・スコセッシ監督が、俳優レオナルド・ディカプリオをベルフォート役に迎え監督を務めた。
しかし、これが当初の計画であるならば、何故監督の座が、一時リドリー・スコットに渡ったのだろうか。
俳優ディカプリオはこのプロジェクトのプロデューサーでもあり、本作製作時点で既に映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)、映画『アビエイター』(2004)、映画『ディパーテッド』(2006)でスコセッシ監督と仕事をしていた。
本作の製作は、ディカプリオ×スコセッシの名タッグとのこともあり、順調に進むことが予想されていた。
しかし、ハリウッドは、2007年の脚本家組合ストライキの最中であったため、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の開発は正式に中止されることなる。
この時点でスコセッシとディカプリオは、4度目の共同制作となる、映画『シャッター アイランド』(2010)の撮影に向かうため、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のプロジェクトから離れた。
ワーナー・ブラザースの製作部門は、パラマウントの配給部門と対立。ベルフォートには自分の映画を成功させなければならないというプレッシャーが掛かっていた。
ベルフォートは、『グラディエーター』のリドリー・スコット監督がこの企画に参加するまで、高みの見物だった。
俳優ディカプリオは、ベルフォートの物語に強い情熱を燃やしていたため、リドリー・スコット監督とタッグを組むことを決定。しかし、ディカプリオは、クリント・イーストウッド監督の映画『J・エドガー』(2011)に出演することが決定しており、スコット監督は、映画『エイリアン』(1979)のスピンオフ作品『プロメテウス』(2012)を監督することが決まっていた。
結局、ストライキや、ディカプリオと監督陣の多忙さなどにより、ベルフォートの映画は、再び製作にストップが掛かってしまう。
テレンス・ウィンターの脚本では、ジョーダン・ベルフォートのビジネス・パートナーであるダニー・ポーシュは、俳優ジョナ・ヒル演じる架空のキャラクターのドニー・アゾフに置き換えられ、表現された。
ちなみに、このドニー・アゾフという個性的なキャラクターは、『アベンジャーズ』シリーズのクリス・エヴァンスや、映画『インセプション』のジョゼフ・ゴードン・レヴィットなど、他何人もの俳優が、その役を演じるためにオーディションを受けていたという。
最終的にこの役は、俳優ジョナ・ヒルに与えられたが、彼が描いたドニーは、他の俳優陣が演じたものとはかけ離れていたようだ。
リドリー・スコット版の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』がどのような作品になったのかは大変気になるところだ。
しかし、公開された映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、映画批評家からもファンからも絶賛を受けた。それは、スコセッシ監督の貪欲さや、腐敗、リアルな暴力描写や、過激な表現を好むスタイルや、登場キャラクターに個性を持たせる作風とマッチし、大きな成功を呼んだと言える。
ジョーダン・ベルフォートのプロジェクトに短期間参加したリドリー・スコット。一体彼が監督したらどのような作品に仕上がったのだろうか。
リドリー・スコットは、富裕層のゴタゴタを描いた物語を、複数製作している。その内の一つが、映画『ゲティ家の身代金』(2017)だ。
この作品は、実業家で石油王、世界一の億万長者に認定された、ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された実話を、フィクションも交え、ダークなタッチで描いた作品である。
肝心の評価は賛否が分かれている作品ではあるが、リドリー・スコット版の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』がどのような作品になっていたのかは、映画『ゲティ家の身代金』を観ることで、よりリアルに想像することができるかもしれない。
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