「俺たちさえブレなきゃ大丈夫だ」映画『雨降って、ジ・エンド』“群青いろ” 髙橋泉監督×主演・廣末哲万、単独インタビュー
様々な衝撃作を発表し続ける映像ユニット「群青いろ」が17年の時を経て、古川琴音をヒロインに迎えた映画『雨降って、ジ・エンド』。今回は、髙橋泉監督と主演の廣末哲万に独占ロングインタビューを敢行。製作秘話から、17年前の映画『14歳』のエピソード、そして日本のインディペンデント映画についてなど、たっぷりお話を伺った。(取材・文:山田剛志、福田桃奈)
【プロフィール】
2001年に脚本家・髙橋泉と俳優・廣末哲万の映像ユニット「群青いろ」を結成し、デビュー作『ある朝スウプは』(2003年)では、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞。第16回PFFスカラシップ作品として製作された『14歳』では、第36回ロッテルダム国際映画祭では最優秀アジア映画賞、また芸術選奨新人賞を受賞するなど話題を集めた。その後も製作された作品は、数々の賞を受賞し、それぞれ脚本家、俳優として個々でも活動している。
「3ヶ月に1回くらいお酒を飲みながら話す」
映像ユニット「群青いろ」の作品が作られる過程
―――今回、群青いろとしては17年ぶりの劇場公開になります。劇場公開作品を抜きにすると、群青いろとしては何年ぶりの作品になりますか?
髙橋泉監督(以下、髙橋)「本作は2019年に撮影したんですけど、2014年に東京フィルメックスで上映された『ダリー・マルサン』以来なので4年ぶりとなります」
―――カメラマン志望の女性がピエロの男性と出会い交流を深めていく過程で、実に様々な問題が描かれています。まず古川琴音さんが演じたヒロインの日和(ひより)ですが、承認欲求に駆られた、SNS時代の病理を体現したようなキャラクターです。そんな彼女が、廣末さん演じる主人公の雨森と出会うことで、人にカメラを向けるということがどういうことなのかを学んでいく。彼女の成長譚としても観ることができる作品になっていると思いました。今回の企画はどのようにして発想されたのでしょうか?
髙橋「今回の作品を作るにあたって『あらしのよるに』という絵本にインスピレーションを受けました。そこでは、オオカミとヤギという捕食関係にある存在が、種を超えて友情を育んでいく過程が描かれています。
ちなみに時代の病理を反映しているのではないかというお話をされましたが、僕らは特別な病理を抱えた存在として日和というキャラクターを造形したわけではないんです。
彼女はたまたまカメラで撮ったものがバズってしまい、承認欲求が満たされる喜びに目覚める。
Look at me精神で、自分をみてもらいたいと思うのは今の時代、普通のことだと思います。あくまで、どこにでもいる普通の人物として日和を描きました」
―――なるほど。だからこそ、随所で日和に感情移入することができるのかもしれません。本作含め、群青いろの作品はどのような過程で生み出されるのでしょうか?
廣末哲万(以下、廣末)「大体、3ヶ月に1回くらいお酒を飲みながら2人で話す機会を設けて、そこから作品が出来上がっていく流れになります。そこで髙橋さんが考えているお話を聞かせもらって、2人で話しているうちに肉付けされていく。それを髙橋さんが持ち帰って脚本にするという流れですね」
髙橋「今回のように『あらしのよるに』がベースにあって『こういう題材がやりたい』というところからスタートするときもあれば、『次何やろうか? 今、何が気になってる?』という、まったくゼロの状態から企画を立ち上げるケースもありますね」
―――3カ月に1回の飲み会が企画会議を兼ねているのですね。どちらが監督するかについてもその場で決まるのでしょうか?
廣末「発案者が監督するっていうスタイルですね」
―――3カ月に1回というペースが大事なのでしょうか。あまり頻繁に会いすぎると…。
髙橋「話のネタがなくなる(笑)。最近は本作のプロモーションなどで毎日のように顔を合わせているので、すでにそうなりつつあります(笑)」
―――本作は編集もユニークです。冒頭ではフラッシュアワードのような形で、後半に登場するショットが点描的に示されます。どのような狙いがありましたか?
髙橋「前半は事件が起こらない時間が長く続くので、観る人に後半の展開を示唆しつつ、主人公たちの悪ふざけを見守ってもらうという形にしたかったので、冒頭にインパクトを持たせる編集になりました。ちなみに、最終的な編集は廣末くんにお任せしています」
―――自身で一度繋いだ映像を廣末さんの手に委ね、再編集してもらうわけですね。廣末さんの手が入ることで、映画はどのように変わるのでしょうか?
髙橋「僕は外側からしか見ていないので、現場で見たままを並べることしかできないんですけど、廣末くんは内側からの景色をみているので、その感覚が編集に反映される。あとは、廣末くんが繋ぎには独特のリズム感があるんですよ。編集は廣末くんのことを相当信頼しています」