いままでの映画では味わったことのない新しい感情
本作の白眉はやはり主演のケイト・ブランシェットだろう。リディアが権力を行使する攻撃的な心理状態や、精神的に追い詰められているときなど、その場面によって彼女の顔つきがまるで別人のように変化するその様には何度も驚かされる。
また映画は159分のほぼ全編にわたりリディアのみを映し続けるのだが、ケイト・ブランシェット演じるリディアの知的かつ狡猾、独善的で強烈なキャラクターに惹きつけられ、映画は瞬く間にショッキングな展開へとなだれ込んでいくのである。
なかでもジュリアード音楽院でのリディアの授業シーンは近年稀に見る恐ろしさだ。現代音楽を専攻する生徒に対してクラシック音楽についてリディアは問いかける。
しかし生徒は20人の子を持ったバッハを例に、その人格と音楽性をともに否定する。これに対してスイッチが入ったリディアは、笑顔を絶やさず理詰めで生徒をジワジワと追い詰めていく。
いままでの映画では味わったことのない新しい恐怖に包まれるこのシーンは本作のなかでも圧巻である。