ホーム » 投稿 » コラム » 日本映画 » 日本映画史上もっとも泣けるクライマックスは…? 感動のラストで知られる邦画の名作5選。ハンカチ必至の逸品をセレクト » Page 4

過酷な宿命に翻弄された音楽の一世一代の名演

『砂の器』(1974)

俳優の緒形拳
三木謙一役の緒形拳Getty Images

上映時間:143分
監督:野村芳太郎
原作:松本清張
脚本:橋本忍、山田洋次
キャスト:丹波哲郎、森田健作、加藤剛、島田陽子、春田和秀、山口果林、加藤嘉、佐分利信、緒形拳、松山政路、夏純子、稲葉義男、内藤武敏、穂積隆信、松本克平、花澤徳衛、春川ますみ、菅井きん、笠智衆、渥美清、野村昭子、殿山泰司、浜村純

【作品内容】

都内で殺人事件が発生。捜査は難航を極めるが、今西刑事(丹波哲郎)吉村刑事(森田健作)の執念の聞き取りが功を奏し、被害者が殺害される直前に会っていた男の存在が浮かび上がる。

その男は、天才ピアニストの本浦秀夫(加藤剛)。彼には壮絶な過去があった。父・千代吉(加藤嘉)がハンセン病にかかり、村を追われ、巡礼しながら放浪の旅をしていたのだ。

秀夫は7歳のとき、島根県の巡査・三木謙一(緒形拳)に保護された。三木は千代吉を療養所にいれ、秀夫を養子縁組させようと手元に置く。

しかし、秀夫は三木の元から逃げ出した。過去を立ち切り、名を「和賀英良」と変えた彼は、やがて、音楽の才能を開花させていった…。

【クライマックスは…】

音楽家として有名になり、マスコミに注目されたことで、和賀英良=本浦秀夫という事実が三木謙一に伝わる。和賀は三木から「父親があなたに会いたがっているから、一目でいいから会いにきてくれ」と頼まれる。しかし、自分の正体が世間にバレ、今の生活が送れなくなると考えた和賀は、三木を殺害することを決意したのだった。

コンサートが行われる。情熱的なタッチでピアノの鍵盤を叩く和賀は、曲の終盤で立ち上がりオーケストラに向けて力強く腕を振るう。会場からは盛大な拍手。会場には今西刑事と吉村刑事がおり、その手には逮捕状が握られている。曲が終わると場面は変わり、子どもの頃の秀夫と父・千代吉が送った、辛い放浪生活の日々がフラッシュバックするのだった。

【注目ポイント】

終盤、刑事である今西(丹波哲郎)と吉村(森田健作)が捜査本部で事件の全貌を説明する。そこで千代吉の療養所から、何十枚という手紙の存在が明らかになった。

千代吉は三木と約25年に渡り、手紙でやり取りをしていた。そこには、繰り返し「秀夫に会いたい。死ぬまでに一目でも会いたい」という思いが綴られており、それに対し三木は「あなたの息子は見どころのある頭の良い子だから、きっとどこかで立派に成長しているだろう。必ず、きっとあなたに会いにきますよ」と返していた。

今西は、療養所で過ごしている千代吉を訪ね、立派に成長した息子の写真を見せ、「この男を知っているか」と聞く。

やっと、実の息子にやっと会えるかもしれないというところで、千代吉は、知らないと言い放つ。三木との手紙のやり取りから、本当の気持ちを隠していることはわかるが、辛く厳しい放浪の旅を思い出しているのだろうか、立派に育った息子を、もう一度差別の対象にさせるわけにはいかないのだ。

この秀夫のことを想って吐いた嘘からは、計り知れないほどの息子への愛が感じられる。

ラストシーンは、秀夫自身が作曲した「宿命」を自ら演奏と指揮をしている描写が、他のシーンと交互に重なり合うように入れられており、このエモーショナルな演出により、一層我々の感情を効果的に引き立てている。

作中の言葉にあるように、「旅の形はどのように変わっても、親と子の宿命だけは永遠のものである」という言葉の深さに気づかされる。

1 2 3 4 5