幸せの後に訪れる喪失
ユリだけがふわふわと人の間を漂っている一方、晴は後輩の臼井都(河村花)から想いを寄せられていた。
2人きりでの帰り道、臼井はあからさまにユリをけん制する。物語冒頭からギプスをつけている晴。骨折の理由は、ユリを“サセ子”と言ったやつを殴ったからだ、と臼井は言う。そんなに思ってくれているのにもて遊ぶのなら別れたらいい、というのはまったくもって正論だ。
だが、ユリは「臼井さん、晴くんのこと全然わかってない」と笑う。「晴くんはそんな立派な人じゃないよ」という、呪文のような言葉を置いて夜道を歩くユリの背中が、わたしたちが感じている“晴くん像”とともに少しだけ揺らぎはじめる。
冬休みに入り、姿をくらましたユリ。「隙間なんてない」とユリに言われたにもかかわらず、その隙をつくようにして臼井は晴に想いを伝える。晴とユリが出会ったラーメン屋さんで、告白の言葉は「わたしのほうが幸せにできるよ」だった。
ユリに対し常に不安を抱えている晴への、精一杯のアピールだろう。けなげだな、と思う。しかし、そもそも晴が不安のないことを幸せと考えているかどうかはわからない。もしかしたら、この不安定な状態でもなおユリを思う事実に、晴は自身の想いを強くしている可能性だってある。
その証明みたいに、直後のユリからの着信で、晴は臼井を置いてとっととラーメン屋さんを出て行ってしまう。目の前に現れた自分を好きと言ってくれている臼井よりも、数日放置したくせに、自分勝手に「寂しいから迎えに来て」と突然電話してきたユリを、晴は選んだ。おそらくは1mmの迷う隙間すらないままに。
人知れず手術を受けたらしいユリは心身ともに弱っていた。だから、まるで羽を休めるみたいに、晴の家でゆったりと冬休みを過ごすユリ。ちょうど誕生日からクリスマス、年越しにかけての期間で、ドラマのなかで最も幸せを味わえるシーンが多く続く。
そのなかで、ユリは晴に、“もし仮に…”と数回問いかける。印象的だったのは、「もし仮に、わたしと晴くんが出会っていなかったら」というもの。晴は不穏な空気を察知して、ユリの言葉を遮り「ユリさんを迎えに行くよ」と応え、ユリは「未来で待ってる!」と喜ぶ。仮定の話が、約束になった、ように感じた。
カウントダウンのジャンプを終え、ユリは晴といることを幸せだと言い、「晴くんといる時間が1番価値があった」と話す。“あった”。過去形だ。ユリが、間違いなく何かを決意していたことがわかる。
実際、ユリはその日を最後に姿を消した。