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久我ユリとは何者だったのか

©︎テレビ東京
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果たして、久我ユリとは一体何だったのか?

晴の言うように、掴みどころのない気ままな宇宙人か。赤澤の言うように、意志があって女優の才能に恵まれた人物か。はたまた、臼井の言うように、自信がなくて意志が弱い人物か。

恐らく、どれも彼女の実態なのだろうと思う。赤澤にとってユリはたしかに魅力的に見えていた。臼井には、晴を弄ぶように振る舞って気を引こうとする人に見えていた。そして、晴にとってはいつも掴みどころのないように感じられる人物で、それゆえいつも嫉妬していた。

それ以上に、考えれば考えるほどわからなくなるのは晴だ。根津晴の本性が、わからない。

晴は、時にやり過ぎなくらいにユリを縛った。赤澤の撮影に参加していると聞けば盗撮も辞さなかったことを思うと、ユリに怒って壁を殴ったことも、もしかしたらあるのかもしれない。

臼井が“ユリ化”したのも気になるポイントだ。自信がなくて意志が弱いとこき下ろしながら、最終的にはユリの口癖を口にする。晴が撮ったユリの映像を臼井が編集していたことから、「はい、許します」までのやりとりが、かつて晴とユリがやっていたものだとわかっていたはずだ。ユリのようになりたくて意識的に似せたのか、それとも無意識の投影か。

実際のところはわからないけれど、ユリこそ晴にとっての理想(恋人としても、おそらく被写体としても)だったのではないか。そう考えると、臼井はそこに自ら寄っていったのではないかと推測する。ユリみたいになりたくて、ユリのように振る舞う。晴の心を掴んでおくために。

いや、もしかするとわたしたちが見た久我ユリも、晴の理想を投影した人物像だったのかもしれない。でも、どこかのポイントで、もしかしたら手術を受けたというあのときに、これ以上一緒にいたらダメになると気が付いた。だからユリはあえて晴との距離を取ったのではないか。

ユリの部屋にあったという穴も、もしかしたら晴が前の恋人と……なんて妄想すらはじめてしまいそうになる。それもひとえに、小川未祐がユリをとことんつかみどころなく、望月歩が晴を裏がありそうに演じたからこそだろう。深夜放送の30分、全4話という短いドラマではあったが、余韻の残る、味わい深い良作であった。

(文・あまのさき)

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