杉咲の提案で生まれた高架下の名シーン
島村は2019年にドラマ『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系)でデビューしたばかりの若手で、「若い役者にチャンスやって下さい」 という若葉竜也の提言により行われたオーディションでこの役を勝ち取ったそう。
本作の撮影現場では、俳優陣とスタッフで日々ディスカッションが行われている(※公式ホームページ「ある制作チームの日記」より)。若葉の提言でオーディションが開催されたように役者の意見が採用されることもしばしば。高架下でのミヤビと亮介のやりとりが長回しで撮影されたのも、杉咲の提案によるものだ。
人の何倍も努力し、サッカー強豪校でエースとなった亮介。それなのに、自分に何の落ち度もない理由で今までのようにサッカーができなくなった彼に何ができるか、何を言ってあげられるか。ミヤビは自らの障害を打ち明け、日記を見せる。
ミヤビが日記を開くと、ページに泥がつく。さっきまで亮介と泥だらけになりながらパスの練習をしていたからだ。だけど、明日起きたら彼女は、泥がついた理由を忘れている。それどころか、亮介のことも一切覚えていない。
事故に遭った一年半前から現在までの出来事。自分と話した内容もびっしり書き込まれたミヤビの日記を見て、亮介は驚いたことだろう。亮介がそれまで全くミヤビの障害に気づかなかったのは、ミヤビがそれだけ完璧に彼との間にあった出来事を覚え直しているということ。量は日々増えているというのに、その大変さは想像を絶する。それでも、医者でいることを諦めたくなかった。
ミヤビの想いを受け、「左がないのに左を意識しろって無理じゃん。そんなんサッカーやめろって言ってんのと一緒じゃん」と憤りを吐露する亮介。ミヤビの話を聞いているうちに乾いた頬の土が、亮介の流した涙で再び濡れる。長回しだからこそ、時間とともに移ろっていく2人の心情が臨場感を持って伝わってきた。