手描きアニメーションの醍醐味〜映像の魅力
本作の注目ポイントは、なんといっても「手描きアニメーション特有の味わい」に尽きるだろう。本作の制作以前、イギリスの美術館テート・ブリテンで、19世紀の画家、ジョン・エヴァレット・ミレー作の絵画《オフィーリア》に感銘を受けた宮崎は、作画方法の見直しを決意したという。そのため、本作ではCGが一切用いられておらず、作画も全て手描きで行われている。
台風で荒れ狂う波や嵐の中を疾走するリサの車、そしてゆらゆらとゆらめく海底の生き物たち。本作に登場するこれらのモチーフはまるで生き物さながらに躍動しており、アニメーションならではの視覚的な快楽に満ちあふれている。
なお、本作の作画に用いられたセル画の枚数は、ジブリ史上最多となる17万枚。本作よりも30分ほど長い『もののけ姫』(1997年)が14万枚、25分ほど長い『千と千尋の神隠し』(2001年)が11万枚であることを考えると、本作がいかにこだわりぬかれた作品であるかがわかるだろう。
ちなみに本作の舞台は、日本一美しい港町といわれる広島県福山市の鞆の浦(とものうら)。社員旅行で訪れた宮崎駿監督が風景を気に入り、実際に宿泊施設や町を歩きながらポニョの構想を練ったという。