⑦短編集『虚像の道化師 ガリレオ7』(2012)
原作内容
「ガリレオ」シリーズ第7弾となる短編集。前作までは5編収録されていた短編集ではあるが、本作には4編のエピソードが収録されている。発売初週で4万5000部を売り上げ、オリコンランキングBOOK(総合)部門で首位を獲得した。
『ガリレオ 第2シーズン』に登場する4エピソードで実写化
第一章「幻惑す(まどわす)」
初出:『別册文藝春秋』第292号(2011年3月号)
ドラマ放送回:第1話「帰ってきた変人! 第1話は物理学対念力!!」
【ドラマ版あらすじ】
新興宗教団体『クアイの会』の信者が、雑居ビルの5階にある教団の施設から転落死した。巷では、教祖・連崎至光(大沢たかお)がその信者に念を送ったことが死の原因だともっぱらの噂だ。湯川は、転落までの一部始終をとらえた連続写真を見て、事件に興味をもつ。写真を撮影したカメラマンによると、連崎は信者に指一本触れておらず、亡くなった信者の眼球は白く濁っていたという。
湯川は信者が飛び降りる瞬間をとらえた写真を見返す。すると、連崎が念を送ってから男が飛び降りるまでの間に、一瞬だけ部屋が暗くなっていることに気づくのだった…。
「幻惑す(まどわす)」で新興宗教の教祖を演じたのは大沢たかお
第1話のゲスト俳優は、新興宗教の教祖・連崎至光を演じた大沢たかお。人を死に追いやるほど、強い念能力の持ち主として湯川や岸谷を翻弄した。
しかし、湯川の明察によって、裏にあるカラクリが明らかに。連崎の座席からは高出力のマイクロ波が放出される仕組みとなっており、被害者は強烈な熱波を受けたことで後ずさり、転落死を遂げたのだった。信者の目が白濁していたのは熱の影響に他ならない。また、強力なマイクロ波を放出するためには大量の電力が必要となる。そのため、部屋が一瞬停電したのだった。
マイクロ波を放出した主犯格は、連崎ではなく、妻の佐代子(奥貫薫)である。彼女は教団の影響力を広く知らしめるために、上記のトリックを発明。連崎は妻の目論みに勘づいていながら、気づかないフリをしていたのだった。
第二章「心聴る(きこえる)」
初出:『オール讀物』2011年4月号
ドラマ放送回:第3話「復讐する亡霊社内連続怪死事件!」
【ドラマ版あらすじ】
岸谷の大学時代の先輩・白井冴子(陽月華)が亡くなり、告別式が行われることに。出席者である、冴子が勤めていたペンマックス社の社長・早見達郎(近江谷太朗)は、突然両耳を押さえて叫び出し、会場から飛び出した。
翌日、早見は東京湾で遺体となって発見された。現場の状況から自殺であると推定できる。早見は冴子と不倫をしており、冴子の死は早見に捨てられたからと噂されていた。早見は冴子の呪いによって命を落としたのか…。
事件の調査に乗り出した岸谷がペンマックス社を訪れると、社員の加山(宮本大誠)が突然暴れだし、岸谷の臀部にナイフを突き立てた。怪我は負ったものの、加山を取り押さえた岸谷。加山に動機を尋ねると、亡くなった冴子による「次はお前だ」という声が頭から離れないという。
岸谷からSOSを受けた湯川は、ペンマックス社を来訪。すると、女性社員の脇坂(大島優子)が、不快な耳鳴りに悩まされていることが明らかになる。
「心聴る(きこえる)」の驚愕のトリックとは?
第3話のゲスト出演者は、ペンマックス社の女性社員・脇坂に扮した大島優子。人を死においやり、正気を失わせる不気味な声。不快な耳鳴りに襲われるようになったため、「次は自分の番」だと怯える彼女に対し、優しい言葉を投げかけるのが、同社の男性社員・小中(松尾諭)である。
湯川の推理によって、実は小中こそが、呪いの声を裏から操っていることが明らかに。優秀な技術者である小中は、特殊な機械を使い、脳に対してマイクロ波を照射して、特定のターゲットに対してのみ声を聴かせていた。
小中は、信頼する部下であった冴子を弄んだ早見を恨み、彼女の声を聞かせることで復讐を敢行。さらに、彼は脇坂に恋心を抱いており、彼女と親しい加山を次なるターゲットにしていた。
脇坂の耳鳴りも小中の仕業だ。小中は彼女の気を引くために、「あなたは小中を愛している」という言葉を、聴き取れないほどの低さで発し、サブリミナル効果によって洗脳しようとしていたのだった。
第三章「偽装う(よそおう)」
初出:『オール讀物』2011年4月号
ドラマ放送回:第7話「壁を抜ける!? 天狗伝説殺人事件!」
【ドラマ版あらすじ】
学会に出席した湯川と助手の栗林(渡辺いっけい)は、同席した湯川のゼミ生・遠野みさき(逢沢りな)に誘われ、彼女の地元にある神社に足を運ぶことに。神社には鳥天狗のミイラが奉られてあるという。
その2週間前。神社では、神主が白骨死体で発見されていた。神主には持病があり、地元警察は事件性はないと判断。一方、町では神主は鳥天狗によって呪い殺されたのではないかという噂で持ち切りだ。事件の1週間前に、神主は鳥天狗のミイラが奉られている祠をコンクリートで埋めてしまっていた。
みさきの幼なじみである警察官の合田(渡部豪太)から話を聞き、事件に興味をもった湯川は、コンクリートの壁を崩して祠の中を調べようとする。そんな中、そこに小島結衣(香椎由宇)という女性が一同の前に姿を見せた。彼女もまたみさきの幼なじみであり、神主と最後に会話をした人物だ。
神主の死因について謎が深まる中、新たな事件が発生する。結衣の両親、太一(中丸新将)と啓子(宮田早苗)が自宅で殺害され、現場の壁には「鳥天狗」の文字が書かれてたのだった…。
「偽装う(よそおう)」で事件のキーを握る女性を演じたのは香椎由宇
第7話のメインゲストは、血の繋がらない父から虐待を受けて育った女性に扮した、香椎由宇。現場の様子から、結衣の両親は何者かによって殺害されたであろうことは容易に想像がつく。
しかし、湯川は、銃で撃たれた父・太一がロッキングチェアに座った状態であることに疑問を抱いた。もし第三者によって撃たれていたら、椅子の揺れで身体は前にずり落ちるはず。湯川の推理によって、2人は殺されたのではなく、心中自殺をしたというのが明らかになった。
自殺を殺人に見せかけたのは、他ならぬ結衣である。自殺だと保険金が下りないため、他殺に見せかけたのだった。湯川は結衣の壮絶な生い立ちに同情を寄せ、真実を公にはせず、すべてを彼女とその恋人である合田の判断に委ねるのだった。
第四章「演技る(えんじる)」
初出:『別册文藝春秋』第298号(2012年3月号)
ドラマ放送回:第8話「vs狂気の女優! 夜空に舞う花火の下で殺人劇場の幕が開く…」
【ドラマ版あらすじ】
人気劇団で代表をつとめる駒田良介(丸山智己)の遺体が、自宅マンションで発見された。駒田は亡くなる直前、劇団のスター女優・神原敦子(蒼井優)と衣裳係の安部由美子(佐藤仁美)に電話していた。電話をかけてきたものの、無言をつらぬく駒田の様子に異変を感じた2人は、マンションを訪れ遺体を見つけたというわけだ。部屋はマンションの20階にあり、完璧に施錠されていた。
岸谷は捜査を進める過程で、駒田と敦子が付き合っていたことを知る。岸谷は敦子が犯人ではないかと直観するが、彼女にはアリバイがある。そんな中、湯川は敦子のアリバイが完璧ではないことを見抜く…。
「演技る(えんじる)」の犯人を演じたのは蒼井優
第8話の犯人は、蒼井優が演じた有名劇団の看板女優・神原敦子。彼女は駒井を殺害すると携帯電話を持ち出し、由美子と合流。ポケットの中に忍ばせた駒井の携帯から由美子に電話をかけ、2人で現場に駆け付けたタイミングで、どさくさに紛れて携帯を元に戻したのだった。
アリバイ工作が見破られても、次なるトリックを仕掛ける敦子は、湯川学が手を焼くほどのIQの持ち主である。しかし、仮説と実験を繰り返す、湯川の科学精神は彼女の知性を上回る。
湯川にトリックを見破られ、理性が崩壊するかと思いきや、「この経験も演技に活かせる」と不敵な発言を残す敦子。湯川の名推理もさることながら、蒼井優のサイコパス演技が印象に残る回だ。