⑦短編集『禁断の魔術 ガリレオ8』(2012)
原作内容
「ガリレオ」シリーズ初の全編書き下ろしの短編集。「透視す(みとおす)」「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」「猛射つ(うつ)」の4エピソードを収録。2015年には「猛射つ(うつ)」を大幅に改稿して、長編小説『禁断の魔術』として発表した。「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」の2編は、『ガリレオ 第2シーズン』の原作に。「猛射つ(うつ)」こと『禁断の魔術』は、2022年9月放送のスペシャルドラマ『ガリレオ 禁断の魔術』として映像化された。
第一章「透視す(みとおす)」は映像化されていない
ほとんどの物語が映像化されている推理小説「ガリレオ」シリーズ中でも、珍しい未映像化エピソード。銀座のクラブを舞台とする異色のストーリーである。
【あらすじ】
湯川は草薙に連れられ銀座のクラブ「ハープ」に足を運ぶ。ホステスのアイは透視能力があり、一目で湯川の名前や職業を当てる。それからしばらく経った頃、アイの死体が発見される。草薙は調査を開始するが、アイは誰からも愛されるキャラクターであったため、怨恨によって殺害されたとは考えにくい。そんな中、草薙と湯川は遺体の足の指に付着していたタバコの葉を手掛かりに、犯人を突き止める。犯人の男は、アイの透視能力によって横領の罪を見抜かれたことで、口封じのために犯行に及んだのだった。事件は解決したものの、アイの透視能力は依然として謎のままだ。湯川は彼女が抱えていた闇にフォーカスを当てることで、謎に迫っていく。
第2~3章は『ガリレオ 第2シーズン』で映像化
第二章「曲球る(まがる)」
ドラマ放送回:第4話「姿なき侵入者と魔球の謎! 遠隔放火」
【ドラマ版あらすじ】
プロ野球選手の柳沢忠正(田辺誠一)の妻・妙子(中田有紀)が火事によって死亡した。火の元はストーブである。かねてから忠正は妙子の浮気を疑っており、夫婦仲は悪かった。
忠正に疑いの目が向けられるが、彼にはアリバイがある。事件発生時、忠正は練習パートナーである宗田と、科学実験のアドバイザーである湯川が見守る中、投球練習に励んでいたのだ。忠正は球団から戦力外通告を受けばかりであり、プロテストの準備をしている。
警察の調査により、火事の原因は事故であると断定された。しかし、忠正は警察の発表に疑いを持っており、事件のことが気になってプレーに身が入らない。疑念を拭いきれない忠正は、湯川にさらなる調査を依頼するのだが…。
「曲球る(まがる)」で崖っぷちのプロ野球選手に扮したのは田辺誠一
第4話のゲスト出演者は、崖っぷちのプロ野球選手に扮した田辺誠一。妻を殺したのは彼女の不倫相手ではないかと疑うも、湯川の推理によって、不慮の事故が原因であることが判明。
また、妻の妙子は不倫をしていたのではなく、プライドの高い夫に内緒で、台湾のプロ野球リーグの関係者にコンタクトをとり、夫が野球の道を諦めないように、裏で根回しをしてくれていたのだった。
遅まきながら妻の思いに気づき、涙を流す忠正。湯川のサポートによって見事テストを合格し、球界に復帰することになり、めでたしめでたし。
第三章「念波る(おくる)」
ドラマ放送回:第5話「距離200キロの目撃者! 双子の神秘」
【ドラマ版あらすじ】
アンティークショップの経営者である磯谷若菜(桐谷美玲)が、自宅に侵入した何者かにハンマーで頭を殴られ、意識不明の重体に陥る事件が発生。倒れている若菜を最初に発見したのは、夫の知宏(桐谷健太)と彼の部下の山下(清水優)である。
事件当時、知宏はセミナーで講演中だった。不思議なことに、長野に住む若菜の双子の妹・春菜(桐谷美玲・2役)は姉の危機を直観し、知宏に電話をかけ「若菜を助けて」と告げたという。
テレパシーによってコミュニケートする双子の事例は世界中で報告されている。テレパシーに懐疑的な湯川の前に現れたのは、岸谷が連れてきた何組もの双子。双子たちは、自分たちの不思議な能力について次々と証言する。湯川は双子たちの証言を聞いても、テレパシーの存在を信じず、すべては「偶然の一致だ」と言う。そんな湯川に対し岸谷は、若菜が東京で襲われた瞬間、離れて暮らす春菜が犯人の顔を見たという話をするのだが…。
「念波る(おくる)」で描かれるのはテレパシーの不思議
双子の持つ不思議な力をテーマにした第5話のゲストは、双子の姉妹を一人で演じる桐谷美鈴と、被害者である姉・若菜の夫に扮した桐谷健太。桐谷健太が演じるビジネスコンサルタントの知宏は、アンティークショップで成功を収めた妻を妬んでおり、金で殺し屋を雇い、若菜の殺害を計画したのだった。
春菜のテレパシー能力で自身の罪がバレるのではないかと恐れ、今度は春菜の殺害を計画するも、湯川によって阻止され万事休す。春菜を襲った実行犯の顔は、春菜がテレパシーを頼りに描いた似顔絵とそっくり。さらに、危篤状態から目覚めた若菜は、なぜか初対面である湯川のことを知っている。双子だけがもつ不思議なパワーに触れ、狐に包まれたような気分になる、「ガリレオ」シリーズでも珍しい回である。
第4章は『禁断の魔術』として長編化。その後、スペシャルドラマに!
原作内容
ガリレオシリーズ第8弾、短編集としては5作目となる「禁断の魔術 ガリレオ8」。その中の一篇「猛射つ(うつ)」は、東野圭吾により長編小説『禁断の魔術』としてアレンジされた。著者の東野圭吾が「ガリレオシリーズ最高傑作」と断言する同作は、2022年9月にスペシャルドラマとして映像化されている。
【ドラマ版あらすじ】
舞台は次作『沈黙のパレード』の4年前。フリーライターの男が自宅で殺される事件が発生。草薙(北村一輝)と部下の牧村(新木優子)が捜査にあたると、被害者は茨城県・光原市で計画されている公共事業のアンチであったことがわかった。
被害者の自宅から発見されたメモリカードに残されていたのは、倉庫の壁に穴が開く瞬間をとらえた不可解な動画。草薙と牧村は湯川のもとを訪れて動画を見せると、湯川は強い興味を示すのだった…。
政治家暗殺をモチーフにした展開が話題に
フリーライター殺人事件の背景には、彼に恨みを持つ湯川の元教え子・古芝伸吾の存在があった…。古芝は政治家との不倫の最中に命を落とした姉を慕っており、政治家への恨みを募らせる。彼は姉の復讐を果たすため、かつて湯川に教えてもらった方法で「レールガン(電磁砲)」を作り、政治家を「猛射つ(うつ)」ことを目論む。湯川の活躍によって犯行は未遂に終わるが、現実に起きた事件を想起させる描写に心がざわついた視聴者は多いはずだ。ちなみに、ドラマ版で古芝伸吾を演じているのは、映画『沈黙のパレード』で重要なキャラクターを演じている村上淳の息子・村上虹郎である。